学芸の小部屋

2021年1月号
「第10回:瑠璃釉 葦文 稜花皿」

 あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い申し上げます。

 2021年1月7日(木)より『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅡ―ハイライト―』を開催いたします。本展は2020年1月から3月にかけて開催予定でした『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅡ』(同年2月に急遽会期終了)から出展作品を約70点に選りすぐり、ハイライト版で展示したもの。 今回の学芸の小部屋では、出展作品から「瑠璃釉 葦文 稜花皿」をご紹介いたします。


瑠璃釉 葦文 稜花皿
伊万里
江戸時代(17世紀前期)
高3.3㎝ 口径18.7㎝ 高台径7.7㎝


 本作は口縁を広く作った形の中皿。17世紀前期に作られた初期伊万里のうつわです。 表面は初期伊万里の特徴でもある薄瑠璃釉の淡い水色、裏面と見込の葦文は透明釉によって白く掛け分けています。また、口縁はヘラ等で稜花形とし、見込やその周辺は彫りの技法で文様をあらわしています。力強いヘラ痕や厚作りの器形が大らかな印象の作品です。

 今回、展示替え中に本作に直接触れる機会がありましたので、使用されている削りや彫りといった装飾技法を詳しくみていきます。  まずは稜花形の口縁から。稜花形とは円形の口縁に規則的に切れ込みを入れ、かつ一間隔で突起をあらわした形のことです。こうした口縁に細工が施されている器形は17世紀中期以降の伊万里焼では型を使用した成形が主ですが、本作ではヘラ等で装飾されています。正円に挽いたうつわの口縁を部分的に切り取ったり、ヘラで削ぎとったり。勢い余ったのか、削りすぎて歪んでいるものもみられ、陶工達の手の感覚をたよりに作られたことを窺わせます。

  見込周辺の鎬文は彫り痕の間隔がほぼ一定のため筋車(回転台)にのせて少しずつ回しながら削っているとみえます。見込についた彫り痕によってヘラの先端の形は半円状のものであると推察できるのも面白いところです。なお、今回触ったことで鎬文下部に粘土の僅かな盛り上がりを確認しました。おそらくヘラ等を使用して鎬文をあらわした後、削った粘土カスを取り除く為に裾部を整えた際に、彫り残した部分の土が押されて生じたものでしょう。
 先に見た口縁と鎬文は成形をした後に施された装飾ですが、見込の葦文は先に施釉し、その後で瑠璃釉を掻き落とし、そこに透明釉を筆で載せて白くあらわしています。もう少し掻き落とし部分を観察すると、彫り込みが深く、細いヘラ等で繰り返し施文していることが分かります。加えて、釉薬面のみならず、素地から抉り取られているのが確認できました。伊万里焼では基本的に釉薬を掛けるのは素焼きという低火度焼成で軽く焼き締めた後。そのため、掻き落としを行っても素地が深く抉り取れるとは考えにくく、恐らく本作は素焼きの工程を行わずに施釉する、生掛けだったのではないかと考えます。なお、初期伊万里の生掛けについては研究史のなかでも多数指摘がありますが、こうもはっきりと分かる作品はあまり多くありません。さらに本作は山辺田窯跡から類品の陶片の出土も確認されており、初期伊万里の時代にあった複数の窯のなかで、少なくとも山辺田窯では生掛けでの製作を行っていたことがわかる貴重な資料の一つです。
 余談ですが、本作は裏面に透明釉、表面に瑠璃釉が掛け分けられています。裏面に及ぶ瑠璃釉の液だれから施釉の順番は①裏面に透明釉施釉、②表面に瑠璃釉施釉、③見込の葦文を掻き落とした部分に筆で透明釉を施釉、とみえます。

 直接作品に触れると、様々な事に気が付きます。本稿で取り上げたのは細かい部分ではあるのですが、少しでもやきものの作り方を考えるきっかけとなりましたら幸いです。

(小西)



【参考文献】
『角川 日本陶磁大辞典』角川書店 2002
『古伊万里の見方 シリーズ3装飾』九州陶磁文化館・編集発行 2006
『山辺田遺跡―国指定史跡山辺田窯跡に関わる陶磁器生産工房跡の発掘調査報告書―』有田教育委員会・編集発行 2017

※本稿の内容は、2020年1月から3月にかけて開催予定でした『たのしうつくし古伊万里のかたちⅡ』(同年2月に急遽会期終了)の展示解説やイベント等にてお話しさせていただいた話題の一つです。2020年12月現在、未だに当館でのイベント再開の目処が立っていないことを鑑み、本来の展示解説の内容から、改めて文章化を図った次第です。
なかなか、大きな声でいらしてくださいとは言いにくい状況が続いておりますが、感染防止に努めつつ、より安全に開館を続けられるように努めてまいります。


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