学芸の小部屋

2017年11月号
「第8回:長皿」

 日に日に秋も深まる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。当館の庭はまだ紅葉の気配はありませんが、開催中の『18世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅱ-展』および『磁器生誕から100年の変遷』(いずれも12月20日まで)には紅葉文や秋草文の伊万里焼や鍋島焼を出展中。うつわに秋を探してみるのも一興です。

 さて前回の学芸の小部屋(2017年10月号)では華やかな古伊万里金襴手様式の伊万里焼をご紹介いたしましたが、今回は一転、青一色で絵付けされた染付のうつわを取り上げます。染付は、伊万里焼では17世紀初頭に焼造が始まりました。18世紀以降は数十客単位の組食器として量産されて大人数が集まる食事の席で用いられ、人々の暮らしに浸透していきました。



 長方形の皿である長皿(図1、2)も、17世紀後半から作られていますが、18世紀以降によく見られるようになるうつわのひとつ。別名「鮎皿」とも呼ばれ、魚の刺身や焼物(魚や肉、豆腐、野菜、玉子などを焼いた料理)を盛ったとされます。
 江戸時代の代表的な料理書のひとつ、『料理早指南』(享和元年(1801))の中には、本膳料理(正式な日本料理の膳立て)をあらわした挿図が掲載されており、「長皿」は、本膳、二の膳とは別に描かれています(図3下方)。残念ながらこの挿図からは上に盛られた料理が何であったかは判然としません。そこで挿図の後に続く、それぞれのうつわに盛る料理例が季節ごとに列挙された部分を読み進めると、「本膳向」、つまり長皿には「焼物」を盛るとあります。
 ちなみに、「焼物」料理の秋の項を見ると、鱚(きす)の塩焼きやへちまの鴫焼、擂った柑子と醤油をかけた鱒(ます)の塩焼き、あるいは海老のかまくら焼き(伊勢海老を殻ごと塩や醤油をつけて焼いたもの)としめじなど、数種類の料理例が見られます。様々な食材を使って、江戸時代の人々も旬の料理を楽しんでいたのでしょう。普段の食生活では一汁一菜も珍しくありませんでしたが、本書の本膳料理のように単なる栄養補給の意味合いを超えて、「楽しむ」ための食事もあったことがうかがえます。18世紀以降は、各種料理本の刊行や料理屋の増加など、料理文化が発展。豪勢な食事も提供されるようになりました。それに伴い、長皿のような膳に別添えする菜、言わば「プラス一品」を盛るうつわが増加していくと考えられます。もちろん、一汁一菜の食事では「一菜」を長皿に盛り付けても良し、また丸いうつわの多い中、長方形はアクセントになり、使い勝手も見た目も良いうつわであったのでしょう。

 長皿の長方形は、轆轤(ろくろ)成形ではなく、糸切り成形によって作られました。糸切り成形とは、粘土板を型に押し当て、はみ出た粘土を切り取って形を整える技法。17世紀中期より変形小皿の成形時に用いられてきた技法ですが、18世紀以降はほぼ長皿だけにしか見られなくなります。17世紀の糸切り成形の変形小皿と比べてやや厚手で、量産することに主眼が置かれています。このような厚手で四隅を少し内に入れた入隅(いりすみ)とする長皿の形は、18世紀から19世紀に至るまで大きな変化がなく作り続けられました。今展出展中の「染付 蛸唐草龍文 長皿」、「染付 白鷺文 長皿」(図1、2)も時代に開きはあるものの、いずれも糸切り成形で作られたもので、ほぼ同形です。

 しかし二種の長皿はほぼ同形、そして同じ染付のみの絵付けであるにもかかわらず、随分と異なる印象。それは絵付けの画題もさることながら、構図や背景色、絵具の発色の違いが大きいためと考えられます。



 「染付 蛸唐草龍文 長皿」(図4)は、見込に長方形の窓を設けて内には二頭の龍を描き、外は蛸唐草文で埋めています。本作のようにきっちりとした窓を設ける構図の長皿は、18世紀前半によく見られるもの。窓内の文様を桜川にしたり蛸唐草にしたりと、様々なヴァリエーションが知られています。本作の雲龍文は、目を大きく見開き、胸を張って毛を逆立てていますが、うねうねとくねらせた身体、爪のない手足など、どこか可愛らしさが漂います。龍の合間には雲をバランスよく配し、また蛸唐草文は輪郭線で囲った内側、2mm程の間を塗りつぶしていくという丁寧な表現です。

 一方「染付 白鷺文 長皿」(図5)は、鷺の全身をはみ出さんばかりに大きく描き、また三羽の顔や身体をあちらこちらに向けることによって、画面という窓枠を超えた迫力ある構図。目いっぱいに広げられた翼の羽音まで聞こえてきそうです。また本作の印象をより強くしているのが、青色の遣い方。やや濃い目の青色は背景とし、素地そのものの色を活かして鷺の美しい白い身体を表現しています。口縁の周囲のみ、墨弾きによる白抜きで境目を作って淡い青色としたのは、雲を表現しようとしたのでしょうか。このように背景の青色に対して白抜きとする文様は、18世紀後期以降の定番。ややデフォルメした鷺の表現とよく調和してメリハリの効いた粋な仕上がりです。

 長方形の窓枠を生かして丹精に描いた「染付 蛸唐草龍文 長皿」、背景を塗りつぶし素地そのものの色を効かせて大胆に主題をあらわした「染付 白鷺文 長皿」。染付のみの賦彩であるという共通点はありますが、時代による意匠の好みの移り変わりが感じられます。逆に言えば、これだけ長く長皿が作り続けられている要因として、うつわとしての使い勝手はもちろんのこと、量産に適した染付のみという範囲内で絵付けを工夫し、次々と流行りを生んだ伊万里焼生産者たちの機微も見逃せません。

 18世紀の伊万里焼を並べてみると、今回ご紹介した長皿二種のように、全く異なる文様が描かれているのに実は器形や大きさはほとんど同じ、というものがしばしば見られます。量産化が進む時代ですので、素地の成形時、器形のヴァリエーションが少ない方が効率的であったのでしょう。しかし、それで終わらないのが伊万里焼の面白いところ。料理を盛るうつわとしては、全く同じ文様でも、あるいは全く無地でも用は足りるはずです。それにも関わらず、味気ないと思ったのか、粋な絵付けをどんどん工夫していくあたり、江戸時代の人々の遊び心、また少しでも日々の生活に彩りを加えたいという飽くなき探求心が垣間見えます。料理文化の発展に伴い、料理そのものを「楽しむ」ために、うつわにもこだわって工夫を重ねたのでしょう。是非展示室の伊万里焼から、そのような18世紀の絵付けの工夫を「再発見」していただければ幸いです。

(黒沢)


【参考文献】
『別冊太陽 染付の粋』平凡社1997

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