学芸の小部屋

2018年1月号
「第10回:中国の青磁と伊万里の青磁」

  新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 戸栗美術館では1月7日(日)より『古伊万里にみるうわぐすり展』を開催いたします(3月21日(水・祝)まで)。釉薬の色による装飾に注目した今展では、江戸時代に肥前で主に使用されていた4色の釉薬を取り上げて、発色の違いや時代による変遷、釉掛け技法の違いによる表情のヴァリエーションをご覧いただけます。 なかでも青磁釉は時代、産地、窯の中の状態など様々な影響で多様な色調を呈する釉薬。今回の学芸の小部屋では伊万里焼と、その比較のために出展する中国の青磁をご紹介いたします。

 まずは「青磁 瓶」(画像1)。玉壺春と呼ばれる下ぶくれの器形が特徴的な瓶です。本作は中国浙江省西南に位置する青磁の産地である龍泉窯で作られました。龍泉市を中心として400以上の窯址が確認されています。北宋末から南宋にかけて急速に発展しました。 本作は全体に深い緑色の発色。釉層が厚く、釉面にびっしりと気泡が浮かんでおり、しっとりとした風合いです。釉薬の色以外の装飾は無く、上品な雰囲気を呈しています。

 ちなみに階段ケースにも前者と同じく龍泉窯で焼成されたものを出展しています。「青磁 象形香炉」(画像2)はその名の示すとおり、象をかたどった香炉。香炉蓋は象の背にのった家形となっており、そこから煙が立ちのぼるように設計されています。香炉としての機能を意識した器形もさることながら、耳や鼻、足などの皮膚の皺、牙や足の指まで細かい細工が見られるのも本作の見所のひとつ。青磁は深みのある緑に少し黄味がかったような発色です。また表面は貫入が多く入っており、ガラス感が強くやや光沢のある仕上がりです。

 ご紹介した2点は同じ龍泉窯の青磁であるにも関わらず、青磁の発色に大きく違いが見られます。この要因のひとつとして、製作年代の違いが挙げられます。
「青磁 瓶」は元時代、海外輸出のために龍泉窯の生産量が特に多い時代に作られたもの。中でも本作は器形、釉調ともに完成度の高いものです。我が国ではこの時期につくられた深い緑色を呈する青磁のことを、寺社造営料唐船で運ばれたことから「天龍寺青磁」と呼んでいます。

 一方「青磁 象形香炉」が作られたのは明時代中期以降。この時期に作られた黄味がかっていてガラス感の強い青磁を我が国では「七官青磁」と呼んでいます。生産が盛んであった元時代とは異なり、龍泉窯の生産が下火になっていく時代のものです。その背景として、明初に江西省景徳鎮に官窯が設置され、磁器生産が景徳鎮窯に一極集中していったことや、絵筆で文様を描いた製品が主流となり、青磁の需要が減少していったことなどが挙げられます。もともと美しい青緑色の青磁を焼成していた龍泉窯が次第に、雑器などを焼成し始め、いわゆる下手の製品が作られる時代となっていきました。

 このように、同じ産地の同じ釉薬の製品であっても、時代背景や当時の需要などによって釉調の変化が確認できます。

 では、ここまでご紹介してきた中国の青磁のうち1点を伊万里焼と比較してみましょう。
 江戸時代につくられた伊万里焼に、中国で作られた「青磁 瓶」と似た器形のものがあります(画像3)。しかし、深い緑色を呈していた中国の「青磁 瓶」とは釉調が全く異なり、伊万里焼はグレーかがった発色です。この瓶は伊万里焼の主力産地であった有田において、磁器の焼成がはじまって間もないころに焼成されたもの。青磁は、釉中の微量な成分や焼成環境によって色調が左右されやすいため狙った色を出すのが難しい釉薬です。そのためか初期の青磁は数も少なく、仕上がりにも個体差が大きいのです。


 本作をよく見ていくと、器面全体が均一に発色している訳ではなく、所々黄味がかったムラが確認できます。あたかも炎の揺れたままに変色が起こっているようですが、焼成時技術が未熟であるがゆえに、窯の中の酸素量を一定にすることが難しかったよう。その影響が釉調にあらわれているのでしょう。中国の青磁に比べれば、技術的に劣るかもしれませんが、暗く発色した青磁釉や色ムラがかえって落ち着いた雰囲気を醸しています。

 伊万里焼に用いられる製磁技術は朝鮮人陶工によって日本にもたらされましたが、絵付けの際には当時の磁器大国であった中国風の文様を用いました。本作を見るとそういった文様だけではなく、器形にも中国のエッセンスを感じることができそうです。

 このように、器形が似たものでも産地によって釉調は異なります。また、中国の二作品で見たように同じ産地であっても時代によって、青磁の色調に変化が見られます。一口に青磁といっても、時代や産地によって発色や質感まで様々です。今展では、個性豊かな青磁の色合いにも注目してご覧いただけたらと思います。  

(小西)


【参考文献】
小山富士夫『陶磁大系36 青磁』平凡社 1978
今井敦『中国の陶磁4 青磁』平凡社 1997
『角川 日本陶磁大辞典』角川書店 2002
湯原公浩『別冊太陽 中国やきもの入門』平凡社 2009

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