学芸の小部屋

2017年9月号
「第6回:芙蓉手―17世紀後半から18世紀初めの製品をみる―」

 日ごと秋の訪れを感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。 現在開催中の展覧会『17世紀の古伊万里-逸品再発見Ⅰ-展』も9月2日(土)をもちまして会期終了となります。残り僅かではございますが、最終日までどうぞお楽しみください。

 さて、今回の学芸の小部屋は、今展出展作品の中から芙蓉手(ふようで)を二点ご紹介いたします。  芙蓉手とは、中国明代万暦年間(1573~1620)頃に景徳鎮民窯で作られた染付磁器の文様様式。見込中央に大きく円窓を設け、その周囲を区切る文様構成が、大輪の芙蓉の花を連想させることから、日本では「芙蓉手」と呼ぶようになりました。主に西欧において人気を博した輸出向けの製品です。


 古伊万里でも同様の文様様式をもつ、芙蓉手の製品が作られています。その背景として、中国・明から清への王朝交代に伴う動乱による中国磁器の輸出縮小は無視できません。これによって、西欧は磁器の供給不足に陥り、日本の国産磁器である伊万里焼の海外輸出事業の契機となりました。中国製の芙蓉手は、当時の西欧において人気の高い製品でした。西欧とアジアの貿易を担っていたオランダ東インド会社が、伊万里焼に対する重要品目として芙蓉手を注文していることからも、人気の高さが想像できます。そして古伊万里の芙蓉手もその大半が国外に伝世していることから、輸出向けの様式であったことが窺えます。


 今展出展中の「染付 花籠文 皿」は、まさに典型的な芙蓉手の製品と言えるでしょう。見込中央に円窓を設け、周囲を区画しています。見込中央の円窓内には、紗綾形文の足付き花器が描かれ、左右対称に生けられた牡丹は大輪の花を咲かせており堂々とした品格が感じられます。
 もう少し作品を眺めていると、見込に描かれた牡丹左上部の余白に虫が描かれていることに気が付きます。このような花と虫の組み合わせは中国ではおなじみの主題。また、周囲の区画された窓には左右対称の蕉葉や牡丹などの吉祥文が簡略ながら描かれ、それぞれの窓の対角線上に同じ文様が配されています。中にはモチーフが判然としないものもありますが、これは略筆で描かれた中国製の芙蓉手を模倣して、さらに略筆で描いたための写し崩れによるものです。

 このように中国の芙蓉手を模した製品は、文様構成のみならず、窓内に表される文様も中国的なモチーフを選択して、左右対称構図で描いています。先の中国製の芙蓉手需要を鑑みれば、これらの精巧な模倣品が求められるのは当然でしょう。

 さて、今展にはもうひとつ、芙蓉手の文様構成をもつ作品が出展されています。「染付 花卉人物文 稜花皿」は、見込中央に円窓を設けてその周囲を区画割りした作品。ただし、周囲の区画窓の間に細い文様帯がないなど、文様区画の方法には違いがあり、広義の芙蓉手に分類されるものです。
 また「染付 花卉人物文 稜花皿」の見込中央の庭先で梅を眺める唐風人物文や、周辺の区画化された窓に描かれた騎馬人物文、桐鳳凰文などは、中国製の芙蓉手に見られるような左右対称の構図ではありません。見込の文様などには、むしろ17世紀後半に成立する色絵の輸出磁器様式、いわゆる柿右衛門様式との共通性を感じます。柿右衛門様式とは17世紀後半に有田において成立した様式で、中国的なモチーフを左右非対称の絵画的な構図で描くことが特徴です。色絵中心ではありますが、同様の文様様式を持つものは染付製品にも見られます。本作も柿右衛門様式の文様の特徴を取り入れた作例と言えそうです。
 ちなみに、本作は西欧に類品が伝世しています。窓内に描かれた文様の構成は異なれども、芙蓉手が西欧において長く愛好されていたことが窺えます。

 ところで、「染付 花卉人物文 稜花皿」が作られた17世紀末から18世紀初めは、柿右衛門様式から古伊万里金襴手様式へと移り変わっていく時代。供給地の流行の変化や中国の輸出事業再開による競争からか、芙蓉手の製品も中国の模倣に留まらず、日本特有の文様構成と言われる柿右衛門様式の文様の表し方へと次第に独自色を強めていったのでしょう。

 以上、芙蓉手の作例を二点ご覧いただきました。17世紀後半に製造された芙蓉手の製品は、当時の流行を反映した、中国製品を模倣したもの。続く17世紀末には、17世紀後半に西欧で流行した柿右衛門様式を意識した文様構成がみられました。時代の移り変わりによって、芙蓉手の特徴的な区画割りはそのままに、より絵画的かつ独自性に富んだ製品が生み出されていたのです。

 類似する構成のうつわでも、そこに描かれる文様ひとつでガラッと印象が変わります。次回の展覧会『18世紀の古伊万里―逸品再発見Ⅱ―展』(9月15日(金)~12月20日(水))では、18世紀の需要にあわせて作られた多彩な伊万里焼をご紹介いたします。西欧向けの時代の流行を敏感に掴んだものや、国内向けの高級品から廉価品まで様々な製品が作られた18世紀。次回展でも、ぜひ似ている作品を見つけて比べていただき、皆様にとっての逸品を発見していただけたらと思います。皆様のご来館を心よりお待ちしております。

(小西)


【主な参考文献】
『17世紀の景徳鎮と伊万里』佐賀県立九州陶磁文化館 1982
『角川 日本陶磁大辞典』角川書店 2002
大橋康二『日本磁気ヨーロッパ輸出350周年記念 パリに咲いた古伊万里の華』日本経済新聞社 2009

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