学芸の小部屋

2019年10月号
「第7回:染付 牡丹宝尽文 分銅形皿」(展示期間:10月4日~10月31日)

 高く澄み渡った空に秋を感じる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 戸栗美術館では、10月4日からはじまる企画展『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅠ』(~12月19日)に向けて、準備が最終段階に入りました。今回の展覧会は、前期後期に渡って約200点の「たのしい」あるいは「うつくしい」かたちの古伊万里を厳選して展示いたします。感性溢れる古伊万里の造形美をお楽しみください。

 さて、今月の学芸の小部屋でも面白いかたちの作品をご紹介しましょう。「染付 牡丹宝尽文 分銅形皿」です。



 画面を5つに区画し、見込中央に牡丹折枝、左右に七宝繋ぎを背景とした牡丹花、上下に宝尽くしの文様を配置。染付による青色のグラデーションや点描を駆使した繊細な牡丹花や、細やかな筆致と濃淡であらわした七宝繋ぎ文に、伊万里焼の技術が高まる17世紀後半らしい風格が漂います。口縁には縁銹(ふちさび)、裏面には果実を伴う唐草文、高台脇には櫛目文と雷文の2種類の高台文様をめぐらすなど、全体的に丁寧に仕上げられた優品と言えるでしょう。


 絵付けだけを見ても手の込んだ本作ですが、今回は「かたち」に迫ってみましょう。左右の外側に膨らんだ弧と、上下の内側にくびれる弧の4辺で構成されている本作の器形。この種の形状は「分銅形(ふんどうがた)」と称されます。

 「分銅」とは物の目方をはかるためのおもりで、現代で一般的であるのは円柱の天板に突起がついた形状(A図)。しかし、江戸時代の分銅は、まるでヴァイオリンの表板のようなかたちです(B図)。



 江戸時代は計量に関する統制が行われ、枡や秤に加えて、分銅にも取り締まりがありました。寛文5年(1665)に彫金師・後藤四郎兵衛以外の者が製作した分銅の使用が禁止されたことで、分銅はB図の形状の、いわゆる「後藤分銅」に統一されます。

 この姿態の諸元を遡っていくと、日本では室町時代末期以降に見られはじめる模様。大坂城跡や堺環濠都市遺跡などにおいて、非常時に備えた金銀の塊(江戸時代の用途とは異なりますが、これも分銅と言います)が出土し、これがB図の形状でした。さらに遡ると、これら中世の分銅は、中国の影響を受けていると言います。中国では、元代(1271~1368)末期頃からこのような形状の銀塊を大型取引等に用いており、続く明代(1368~1644)に「元宝」あるいは「銀錠」と呼ぶようになったとされています。「銀錠」は銀貨そのものであり、中国ではその文様を吉祥の意匠として貴びました。

 やきものにおいても、銀錠や分銅のかたちは反映されました。明代末期の景徳鎮民窯でつくられた古染付には、銀錠をかたどった硯が見られます。また、日本では、陶器の形や絵付けなどの意匠が桃山時代に大きく花開きますが、その中で織部焼の香合や向付の器形に分銅形が採用されました。

 続く江戸時代に「後藤分銅」に統一されると、一層分銅形あるいは分銅文が普及します。源内焼の手鉢に分銅形の作例が残るほか、分銅文を連続させた「分銅繋ぎ」(下図)は着物のデザインになったり、あるいは豊富な財力の象徴として宝尽くし文のひとつに数えられたりと、ポピュラーな文様のひとつに仲間入りしました。


 そして、日本初の国産磁器である伊万里焼に注目すると、分銅形が見られ始めるのは1640年代以降。型を使った成形によって、円形以外の様々な器形のうつわが作られるようになる頃でした。その後、江戸時代を通じて分銅のデザインが積極的に採用されていきます。

 本作も、分銅そのもののかたちの面白さはもちろんですが、以上のような歴史的・文化的背景があって、かたちとして表出したと言えるでしょう。最後に改めて本作を見てみると、主文様である牡丹は富貴の象徴、末広がりの象徴である扇文とともに、宝尽くし文として拍板(はくはん/木製打楽器の一種)、隠れ蓑、隠れ笠が配されています。それらに加えて、器形を分銅とすることで、まさに吉祥尽くし。当時の人々の幸せを願うこころが、絵付けのみならずかたちにまで反映された優品です。


 以上、古伊万里のかたちには、その姿形の面白さ、楽しさに加えて、本作のように幸福への祈りが隠されている作品がございます。『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅠ』では、かたちの奥に秘められた、江戸時代の人々の文化や願いにも思いを馳せてご覧いただけたら幸甚に存じます。
(黒沢)


【参考文献】
馬場章「後藤四郎兵衛家の分銅家業」『計量史研究』19、1997
山田研治「古分銅期における質量標準の実証研究」『計量史研究』20、1998
下中直也『世界大百科事典』24平凡社1981
藤岡了一『日本陶磁大系12 織部』平凡社1989
早坂優子『日本・中国の文様事典』視覚デザイン研究所2000
兵庫陶芸美術館『型が生みだす、やきものの美―柿右衛門・三田―』同2010
石洞美術館『古染付―このくにのひとのあこがれ かのくにのひとのねがい』同2017
佐賀県立九州陶磁文化館『柴田夫妻コレクション総目録(増補改訂)』同2019

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