学芸の小部屋

2003年6月号

 

 もうそろそろ梅雨の季節ですね。ジメジメするのもイヤですが、降雨量が少ないのも水不足の心配で…、困りものです。
 4月5日(土)より6月29日(日)まで、館蔵「匠の技−やきもの、工芸美の結晶」を開催中です。蔵品の中から、江戸時代の肥前磁器を「工芸芸術」としての視点でとらえた作品を企画展示しています。「食のうつわ」として製作された伊万里焼・鍋島焼、それを鑑賞陶磁にまで高めた陶工たちの技と美の結晶をお楽しみください。

 今号は、『謎のうつわ』をご紹介します。展示№104【色絵 桜七宝地文 扇面皿(鍋島 17世紀後半)】は、鍋島展で何度か出品されている作品です。扇面形の皿の右側に直径2.5㎝ぐらいの穴が空いているのです。当館には2枚組で伝世していますが、2枚とも同じ部分に穴があり、明らかに何か特別な用途のために空けられていると思われるこのうつわ。はたして、一体何のために空けられた穴なのか?『謎のうつわ』なのです。

1.調味料や酒の猪口などをはめ込む?
「膳形式の食事とはいえ、鍋島焼は大名道具なので不釣り合いではないか?」とのご教示もありますが、「花見などの行楽用かな?」とも思われます。そうだとすれば、扇面形の形に桜の文様を描くなど、なかなか洒落た趣向ではないでしょうか。

2.食のうつわ以外の生活道具?
「そんなものまで!」と思うほど、多種多様な作品にチャレンジしている肥前磁器なので、植木鉢の台皿や、筆置きなども想像してみましたが…、どうもピン!ときません。

 そこで、筆者は独断と偏見で、あるひとつの推論を立ててみました。この皿に"ピッタリ"のもの…、それは「エッグスタンド付の皿」。穴の部分にタマゴを置く事を考えると固茹でタマゴではなく、おそらく殻付の半熟タマゴなのではないでしょうか?江戸時代、タマゴは贅沢品だったそうです。鍋島焼を持っているアッパークラスな方は、当然タマゴも食べていたでしょう。日本磁器の最高峰ともいわれる鍋島焼で高級品のタマゴを食す、なんとも優雅な食事風景が頭に浮かんできます。
 
さて、皆様は「何のうつわ」だと思われますか?

 皆様のご来館をお待ちしております。

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