2003年10月4日(土)〜12月23日(火) の日程で開催中の、館蔵「古九谷・柿右衛門−色彩の華」展では、 伊万里における二大色絵の醍醐味を味わっていただける作品を多数出品しております。 今号はその中から、展示№11 「色絵 花鳥文 台鉢 (古九谷様式)」 (17世紀中葉) の作品をピックアップいたします。
深めの皿に高い足の付いた台鉢で、見込に大きな松樹と草花、その上を舞う2羽の鳥が描かれています。 皿の側面には色とりどりの斜線文を帯状にめぐらし、 華やかさを演出しています。落ち着いた色調の絵の具ではありますが、 多彩な色使いでやわらかな作風に仕 上がっている作品です。
【台鉢】とは、広い台脚をもつ鉢。懐石の盛り込み鉢として用いられる。 台状の脚は実用的な利点はなく、格式を示す装飾と推測される。 (角川書店『日本陶磁大辞典』より抜粋)とあります。
伊万里の古九谷様式の一群には、茶人の心意気が色濃く反映された茶道具が多く伝世していますので、 この台鉢も懐石用の盛り込み鉢として、料理や菓子を盛るために製作されたのでしょう。
しかし、この台鉢からはまるで <源氏物語の薫の君> のように 「芳しい香り」が漂ってくるではありませんか…!!!。 どの時代の持ち主かは判りませんが、これで香を焚いていたと思われます。 そのため、<東風吹かば〜、匂いをこせよ梅の花〜、主なしとて春な忘れそ〜> の菅原道真ではありませんが、現在でも「芳しい香り」 が焚きしめられた台鉢と木箱から、以前の持ち主の雅なたたずまいを彷彿とさせてくれます。
展示替えは限られた期間内で行わなければならないので、時間と体力の勝負になります。 ピーンと張り詰められた精神で、黙々かつテキパキと行われます。 が中には、先輩の学芸員が後輩を呼び集め、レクチャーする作品が何点かあります。 この台鉢もそのうちのひとつです。 といっても、作品説明とは違い「ほらほら、香りがするよ!」といって木箱や鉢を皆でかぐのです。 木箱の中には江戸時代からの共箱もあり、埃などを考慮して鼻を近づけたりはしないのですが (わりと皆、埃アレルギーなので…)、この作品だけは、 先輩から後輩へと香りをかぐことを伝習されているのです。
ガラスケース内に展示されているため、 皆様に「芳しい香り」をご堪能いただけないのが非常に残念なのですが、 鼻の利く方なら「芳香」を感じ取っていただけるかもしれません。 鼻利き自慢の方は、是非ご来館いただき、 作品№11台鉢の前で「スゥー、ハァー」とチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
皆様のご来館をお待ちしております。