学芸の小部屋

2003年11月号

酸化、還元?至難の赤色…

 2003年12月23日(火) 迄開催の館蔵 「古九谷・柿右衛門−色彩の華」 展では、江戸時代、17世紀中葉〜18世紀初にかけて製作された伊万里の色絵作品を中心に展示しています。今号のおすすめは、展示№75 「辰砂釉裏紅 石榴文 捻花形皿」 (17世紀後半) の作品です。


 口径14.3cm のこの中皿は捻花の口縁をもち、咲き誇る花や光輝く日輪を思わせる、薄造りでシャープな造形をした優れた逸品です。
  特筆すべきは、釉と絵の具の発色です。 見込下部のこげ茶色に発色した石榴文様は釉裏紅という技法で釉下に描かれています。 そしてその上から、やわらかな小豆色の辰砂釉が施されています。 裏面にも辰砂釉が施されていますが、高台内のみを白磁にしその中央に染付で 「丸に誉」 と染付で書されています。

 この作品が製作された17世紀後半の伊万里焼には、同じ茶系の作品である銹釉や鉄絵があります。が、辰砂釉のみでも珍しいのに釉裏紅が伴っているのは、非常に貴重な作品です。
10枚揃いで伝世したことからも、とても大事にされていたことが読みとれます。(今回は5枚展示です)

 ところで、辰砂釉やら釉裏紅やら、なにがスゴイのかというと、赤色を発色させるというのが難しいのだそうです!!! 銅という金属は酸化すると緑色に、還元すると赤くなり、銅は高熱で気化しやすい性質があるため、それを防ぎつつ還元炎焼成して、理想の鮮紅色を得るのは至難の業なのです。 釉裏紅は中国の呼称で、日本では辰砂ともいいます。 そのため今回の 「辰砂釉裏紅」 の作品名は重複していますが、『釉下の文様を赤く発色させ、尚かつ上から掛かる釉も赤く発色させる』 というダブルで難しい技をこなしているという意味を含めて表記しています。

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