学芸の小部屋

2003年12月号

大事にされていたんだね〜

 2003年もあと少しで終わりですが、館蔵 「古九谷・柿右衛門−色彩の華」 展も 12月23日(火) 迄の開催です(ご来館お待ちしております!)。 江戸時代に製作された伊万里焼、そのデザイン感覚は“食のうつわ”の用途を越え、今なお新鮮味を放っています。
さて、今年最後の[学芸の小部屋]は、展示№52【白磁 瓢形瓶】 (17世紀後半)にスポットをあてます。

 写真左は高さ26.4㎝の瓢形の白磁瓶。胴のくびれた箇所には紐をめぐらせ、細頸部には竹節の装飾がされています(写真が分かりづらくて、スミマセン)。
  写真右の展示№53【色絵 山水文 瓢形瓶】(高さ26.7㎝/17世紀後半)は、上記の白磁瓶と製作年代や器形、装飾がほぼ同じであるため対で比較展示しています。この色絵瓶は作風転換期にあたる作品で、伊万里焼の初期色絵である古九谷様式の重厚な色彩を残しつつ、輸出向けに誕生する柿右衛門様式の瀟洒な絵付への萌芽が見られます。
 今回、華やかな色絵瓶ではなくあえて白磁瓶を紹介するのは、先日ある古酒についてのテレビ番組でこの白磁瓶とよく似たものを見かけたからです。

 そこには、京都にある老舗酒造メーカーの酒蔵の中で、約300年の間、大事に保存管理された日本酒の古酒が紹介されていました。 その保存容器は、漆箱に入った白磁の瓢形瓶でした。 ほんの数秒の資料紹介でしたが、古酒の保存年数や器形から上記写真と同類の伊万里焼だと直感し 「あーっ!同じものっ!!」 とテレビに向かって叫んでしまいました。
 日本酒は“鮮度が命”と言われていますが、光をあてずにきちんと温度管理がなされていたため、“米の香り”が活かされつつアルコール度数の高い、それはそれは桃源郷にトリップできそうな美酒(試飲された方の談)が誕生していました!

 私は毎日伊万里焼を目にしていますが、作られた当時の器としての用途は古い絵や文献からの情報をもとにした類推の粋をでませんので、憧憬の念はあっても実感というものがわきません。 ましてや当館では、美術品として大事に保存・展示していますので、なおさらです。
  しかし、美術館で展示されているものと同じ伊万里焼が、今もどこかで“食のうつわ”の役目を立派に果たしていたことに驚嘆し、また日本酒という繊細な液体を、磁膚に浸透性が無く、遮光・気密性が高い磁器の特性を活かして守り抜いた伊万里焼の瓶に「よくがんばった!!」と同朋を讃えるような思いが湧き起こりました。

 最近、のみの市やフリーマーケットの情報をよく目にします。 使い捨て生活の一方で、色々なものがリユース、リサイクルされるようになってきました。 この世界に存在するあらゆるものが、いにしえの人々の想いによって紡がれ息づいています。 その想いを受けとめ未来へと繋ぐため、日々の忙しさに流されない心の余裕が、今の私たちには必要なのかも知れません。 ゆく年、くる年、お大事になさってください。

 本年は誠にありがとうございました。また来年もよろしくお願い申しあげます。

 皆様のご来館をお待ちしております。

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