2月に入り、暦の上では立春ながら、肌を突き刺すような風の冷たさがまだまだ身にしみるこの季節。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
当館では、館蔵「古伊万里 侘と華 —初期伊万里と金襴手」展を好評開催中です。
その時代、時代のニーズに応じ、様式を幾重にも変化させた江戸時代の伊万里焼。 今展示の見どころは、何といっても“モノクロームの「初期伊万里」 VS 金彩を多用したゴージャスな「古伊万里金襴手」”。
『絢爛豪華な「古伊万里金襴手」が良かった!』
『「初期伊万里」の素晴らしさを再認識した!』
など、ご来館いただきましたお客様からは、実に様々な意見が寄せられています。 相対する2つの美の世界を、是非この機会にお楽しみください。
さて、今号は第二展示室入ってすぐ右側に陳列されている「壽文」シリーズより、展示No.68《色絵 壽字吉祥文 鉢》(口径 22.1cm 高 6.3cm / 江戸時代 17世紀末〜18世紀初)のご紹介。
広く浅い内底と、垂直の短い側壁を持つこの鉢は、一般に「独楽(こま)型」と呼ばれ、古伊万里金襴手の型物の典型的な器形のひとつです。細かい幾何(きか)文と花文を配した石畳(いしだたみ)文様で内底を埋め、中央と四方を白抜きし、長命や幸福を願う吉祥文様のひとつである「壽」字と宝物を描いています。
袖文様は菊座とハート形を交互に唐草で繋ぎ、輪郭や側壁の内外に用いられた金彩が、この作品の華やかさを一段と引き立たせています。
よほど大事にされていたのでしょう、金彩は殆ど剥げていません! 通常うつわに装飾された金彩は、釉薬の上に描いて焼成している為、非常に繊細で布などでごしごし拭くとすぐに剥げ落ちてしまいます。 おそらく日常的に使用されたのではなく、数年に一度、それも何か特別なお祝い事の席上などで使われたうつわではないかと思われます。
ところでこのうつわに装飾されたハート形の文様。『トランプ』の組札のひとつとして、また『バレンタインデー』という時節がら、街角のショーウィンドーディスプレイの装飾としてよく目にする、 この余りに有名な文様。 その独特のシンメトリーな形は、一説によると「心臓」をデフォルメしたもので、主に〝心(感情)〟を示すシンボルとして用いられます。
日本においてハート形文様の登場は古く、例えば縄文時代に作られた歴史の教科書などでお馴染みの『ハート形土偶』。 妊婦の姿を造形したというこの土偶には、縄文人の新しい生命誕生への〝祈願や喜び〟が込められているのだとか……。
また〝幸福のシンボル〟といえば『四つ葉のクローバー』。 この植物の葉もやはりハート形。 ちなみに古都・京都では、『四つ葉のクローバー』マークのタクシーに乗車すると「良いことがある!」との噂も……しかしながら、そこは日本有数の観光地・京都。市内を走行するタクシーはおよそ 8500台! その中で『四つ葉のクローバー』マークのタクシーはほんの数台。見つけるの至難の技とか(通常版は『三つ葉のクローバー』マークのタクシーだそうです)
世の平和や、人生の幸福、喜びを願う心。縄文時代の人々も、そして現代に生きる私たちも、吉祥文に願う心はいつの時代も変わらないものです。
今年2月14日のバレンタインデーは土曜日。 休日の昼下がり、大切なご家族やご友人と、または気になるあの方と、街に溢れる吉祥文様を探しに出掛けられてはいかがでしょうか?
皆様のご来館をお待ちしております。