学芸の小部屋

2004年3月号

Springhascome!

 

 日本列島に春一番が吹き荒れ、早くも3月に入りました。いたずらな春の風に帽子などが飛ばされないよう、くれぐれもお気をつけください。
 1月6日(火)から好評開催中の館蔵「古伊万里 侘と華—初期伊万里と金襴手」もラストスパート。 最終日は 3月28日(日)です。まだ御覧になられていない方はどうぞお早めにっ!

 さて、第3展示室の金襴手(染錦手)輸出磁器コーナーはもう春の装い。早春に咲いた梅や桜、牡丹など、うつわに描かれた花々がちょうど見頃を迎えています。
 その中で今回ご紹介する逸品は《色絵 牡丹梅文 栗鼠(りす)鈕蓋物》(通高 21.7cm 口径 13.0cm 高台径 8.3cm/18世紀初)。
  金で彩られた把手(とって)付きの筒形の器形に、碗を伏せた形の蓋を載せた蓋物。蓋頂には、金色に輝く栗鼠のつまみが取り付けられています。 身・蓋に幅の広い染付線をめぐらせ、その上に金彩で描かれた菊唐草。 身の裾から蓋頂まで伸ばす梅と牡丹の枝。 細線で描き出された花の表現から江戸時代の蒔絵に通じる丁寧な仕上がりを感じます。 装飾過多の大器が多い金襴手(染錦手)の中でも、印象に残る小品です。

  長い冬眠から目覚め、お腹を空かせた栗鼠が、梅の枝の上で大好物の実を黙々と頬張る……何だか春の訪れを感じさせる、この季節にぴったりの愛くるしい作品です。

 〝栗鼠〝の意匠は〝葡萄〟との組み合わせで、16世紀中頃の明時代から中国で流行し、日本でも桃山時代に漆器が輸出されるようになると、西欧の好みに合わせ用いられるようになります。(かの有名なマリー・アントワネットも、葡萄栗鼠の意匠の陶磁器を所有していたとか……)。「武道(ぶどう)に律(りす)する」との語呂合わせが人々の心をつかみ、漆芸品や陶磁器類の他に、武士の命でもある刀を飾る鍔(つば)などの刀装具の画題にも、この意匠が好まれました。

 国内外を問わず、いつも人々の心を和ませてくれる愛くるしい栗鼠たち。しかし昨今、少々困った生物として世間を騒がせています。
 その舞台は古都・鎌倉。そしてこの騒動の主役はずばり「タイワンリス」。
 もともと日本に生息していたのはニホンリス、エゾリスなどの種類で、「タイワンリス」は生息していませんでした。 しかし、1950年代頃から、鎌倉に「タイワンリス」がその姿を現し始めるようになります。 〝飼育していたペットが脱走した〟などの要因により野生化した「タイワンリス」。 現在、鎌倉市周辺生息しているのはおよそ4万匹(!?)ともいわれています。
  ワシや蛇などの天敵がおらず、食べ物が不足する冬でも観光客が与える餌が助けとなり、今後もその数は増え続けるだろうとの予測がたっています。「タイワンリス」に天井裏に侵入される、農作物を荒らされる、中には天然記念物の樹木をかじられる被害に遭うなど、事態は深刻です。近年、森などに逃がしたペットが日本在来種の生息地域を脅かすケースが大きな問題になっています。「可愛いから飼う」という気持ちだけでなく、「一度決めたら最期まで……」という強い意志と責任を持った飼い主の方々が増えることを願うばかりです。

 さてさて、巷で起きているこの騒動を知ってか知らずか、戸栗美術館展示室内に陳列されている〝金色に輝いた栗鼠〟は、今日も黙々と木の実を口いっぱいに頬張っています。
 是非一度、このうつわを愛でてあげてください。

 皆様のご来館をお待ちしております。

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