学芸の小部屋

2004年4月号

♪ひょっこり瓢箪♪

 

 4月に入り、春らしさを感じる日が多くなってきました。
 当館では、2004年4月3日(土)から6月27日(日)まで館蔵 「江戸の至宝—鍋島焼の芸術—」 展を開催中です。
 今回ご紹介する作品は「色絵 三瓢文 皿」(江戸時代、17世紀末〜18世紀初、高5.7㎝、口径20.5㎝、高台径10.4㎝)。

 鍋島焼は、鍋島藩の御用品として、また幕府や皇室へ献上するために採算を度外視し、陶工の技術の粋を凝らして作られました。 この作品もそのひとつ。 見込に3つの瓢箪、その背景に墨弾(すみはじき)で青海波文を描き、鍔縁(つばぶち)にも墨弾による波文様をめぐらせています。
  この墨弾の技法は、臈纈(ろうけつ)染めや筒描(つつがき)のような鑞(ろう)の役割を墨で行う方法です。 素焼きした器面に白くしたい文様を墨で描き、その上に呉須を塗って焼成すると、墨に含まれる膠(にかわ)によって墨部分が焼け落ち白抜きとなります。 施釉前に一度焼成する工程が入るため、時間と手間のかかる技法といえます。

  波間に浮かぶ瓢箪は、「瓢=ひょう」の音から「3つ揃えば三拍(=瓢)子」「6つ揃えば無病(=六瓢)息災」を意味し、末広がりの形状からも吉祥文と考えられています。
  大胆な瓢箪の配置と色鮮やかな紐で器面に躍動感を感じさせる構図は、既存の意匠にこだわらない独創性と品格をあわせもっており、鍋島焼の鋭意を感じさせます。

  瓢箪は、熱帯地方原産(アジア・アフリカ)のウリ科の植物で、日本では古くから中身をくりぬいて、飲み水や酒を入れる器に用いられてきました。 古語では「瓢」(ひさご)といい、瓢箪を二つに割って柄を付けた「柄杓(ひしゃく)」「杓子(しゃくし)」の語源ともいわれています。

 中国の『周礼』によると、病が流行すると城門で厄払いの祭を行い、その際瓢箪に酒をそそいで祀ったとの記述があります。 李鉄拐(八仙人の一人)もこの瓢箪を小脇に抱えた姿で描かれています。
 『西遊記』では、瓢箪を割らずに二つある膨らみの下部分内側に梵字を書くだけで(?!)天地を吸い込んだり、物質を違う物へ変化させることができる仙術が使えるようになったそうです。 お馴染みの孫悟空でも、名前を呼ばれて吸い込まれた先が瓢箪でした。 中国において瓢箪は仙人の重要なアイテムとして活躍しています。

 日本でも、各地に瓢箪に関連する伝承が残っています。 堤や橋を築く際に人柱の代わりに瓢箪を入れる。 河童に田に水を引いてもらう代わりに娘を要求され、瓢箪が沈んだら嫁ぐといって身代わりにする(もしくは瓢箪が水に沈まなければニセモノの神なので嫁入りしない)、瓢箪を携帯していると川で溺れない等、水に関連する伝承が多いことがわかります。
  また「千成瓢箪」で有名な豊臣秀吉は、永禄六年(1566)稲葉山城を陥落した時からこの瓢箪を馬印にしはじめ、一勝する毎に一つずつ瓢箪を増やしていったそうです。

 当館所蔵の鍋島焼の中でも優品のひとつとして数えられる「色絵 三瓢文 皿」。ぜひ皆様にご覧頂き、その感動をアンケート用紙につづっていただければと思います。(館長、職員が一枚一枚皆様のご意見を拝見しています)

 ひょっこり瓢箪の歌を口ずさみながら、みなさまのご来館をお待ちしております!

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