美術館のラウンジから望む庭の青葉も雨に濡れ、みずみずしさを増す今日この頃。いかがお過ごしでしょうか?
当館では2004年6月27日(日)まで館蔵『江戸の至宝−鍋島焼の芸術−』を大好評開催中です!
さて今回は、さわやかな鍋島焼の青磁作品「青磁 獅子形香炉 鍋島」(江戸時代、17世紀末〜18世紀初、高22.0㎝)をご紹介します。
第1展示室へ入り、右を向くと…シッポを上に伸ばし「やあっ!」とお尻をつきだした衝撃的なポーズの獅子がみなさまを出迎えます。 展示する際「ちょっとヒワイかも…」とも考えたのですが、作品番号順にご覧いただくお客様には、ご迷惑はおかけしませんのでご安心を。
この獅子、頭部にはめ込み式の香をたく皿が付いた伏せ香炉として作られています。 牙をむき、舌をのぞかせた口と鼻穴から香の煙が出てくる仕組みです。
獅子の勇ましい表情と、後ろ姿の愛らしさ、そして口からムア〜ンと煙が立ち上る姿を思い描くと、なんだか楽しい気分になってきます。
鍋島焼は、鍋島家の御用品の他、幕府の要人や主要大名の歓心をえて安泰をはかるために作られたやきものです。 二度の移窯の後、廃藩置県で鍋島藩が無くなるまで大川内山(おおかわちやま)で鍋島焼が作られ続けた背景の一つには、優れた青磁石が産出されたためという説もあるほど。
その青磁の鍋島焼が目指したのが、中国の南宋・元時代に龍泉窯(りゅうせんよう)で作られた最高級の青磁、「砧(きぬた)青磁」と考えられています。
ちなみにこの「砧」という不思議な名前。本来は麻や楮(こうぞ)の衣を打って柔らかくするための道具の名で、龍泉窯の優れた青磁に対して付けた日本独自の呼び方です。
そもそも…なぜ布の道具がやきものの名前になったのか???
山科道安(やましな どうあん)の『槐記(かいき)』によると、千利休が所持していた大きなヒビのある青磁を砧と名付けたとも、紀州徳川家伝来の青磁花生が砧の形に似ていたためともいわれています。
今展では、「青磁 獅子形香炉 鍋島」(画像参照)と、透明釉を一回かけただけの青白磁の獅子香炉を並べて展示しています。(青磁の破断面を展示し、実際に何回もかけた釉の厚さを直接ご覧いただけるようになっています。)
鍋島焼の素地は非常に白く、深みのある青磁の青さを出すために何度も施釉しています。素地に凹凸をつけることによって、釉薬の薄い部分が白線として浮き上がり、染付や色絵で文様を描くよりも神秘的な印象を与えています。
中国では、青磁の柔らかく深い緑を宝石の翡翠や「雨過天青(雨上がりの湿潤な天の色)」に譬えています。 梅雨空からのぞく、清々しい空の色のような「青磁 獅子形香炉 鍋島」。
釉薬による趣の違いと、鍋島青磁が醸し出す上品な柔らかさ、そして獅子の愛らしさをお楽しみいただければと思います。
やきものの最高峰、鍋島焼をご覧いただけるのは今月27日まで。お見逃しなく!
皆様のご来館をお待ちしております。