学芸の小部屋

2005年5月号

 日を重ねる毎に気温が上昇し、季節も夏めいてきました。日差しの暖かさに反して冷たい風が心地よいこの季節、当館では染付・青磁・白磁を中心とした「館蔵 古伊万里の展開—魅惑の作品類—」を開催中です。どの作品も清涼感溢れる色彩で、初夏に相応しい展示です。その中で今回は「青磁染付 樹鳥文 葉形三足皿 鍋島」江戸時代(17世紀後半 口径 28.0cm)をご紹介いたします。


 葉を象った器形にミントブルーの青磁釉が施され、見込内には発色の良い染付で松にとまる尾長鳥が描かれています。このように青磁と染付を組み合わせた技法は、青磁染付とよばれます。青磁釉の下に染付を施す場合と、青磁釉の一部を剥ぎ取り染付の部分だけに透明釉をかける場合の2種類の方法があり、前者は染付で描かれた文様が青磁釉にさえぎられるため色調は暗くなりますが、後者は一般的な染付の鮮やかな発色となります。この作品は後者の方法を採用しています。

 青磁染付の技法は特に、鍋島焼において花開きました。鍋島焼とは、日本で唯一の藩専用の窯、鍋島藩窯でつくられたやきもので、将軍家や天皇家へ献上されました。藩窯には優秀な陶工が集められ、その製陶技術の流出を禁止し、規格化された荘厳な作品をつくりました。
 この作品のような地塗りのタイプは18世紀にも引き続きつくられ、多くの作例がみられます。

 鍋島青磁の特徴の1つでもある厚く、ふんだんに施されたうわぐすりは瑞々しく、静謐な湖のようです。また、見込内の染付は鮮やかで、青磁の湖の静寂を破るかのごとく張りつめた印象を与えます。青磁釉の青緑色と染付の藍色のコントラストによる澄みきった緊張感をお楽しみください。

 皆様のご来館をお待ちしております。

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