学芸の小部屋

2005年7月号

  「江戸時代のトリックアート」

 夏日が続きますが、皆様如何お過ごしでしょうか。

 現在当館では、7月2日(土)より「館蔵 鍋島焼名品展」を開催中です。
 今展では、日本磁器の精美と誉れ高い江戸時代に製作された盛期鍋島作品を主軸としてご紹介しています。染付の他、青・赤・黄・緑の彩色を施し美しい色調の色鍋島など、色合いが美しく見る者を惹きつける作品をお楽しみください。

 さて、今回ご紹介する作品は、第2展示室に展示されております「青磁染付 水車文 皿 鍋島」(江戸時代、17世紀末—18世紀初、口径20.8㎝)。鐔縁にした口縁部に掛けられた青磁釉や、見込に染付で描かれた波と水車の文様、裏文様の折枝花文といい、優美さが漂う一品です。

 鍋島焼とは、17世紀後半に伊万里市大川内山にて鍋島藩直営の窯で焼成された焼物です。これらの用途は鍋島藩主の調度品や天皇家・徳川家そして諸大名への贈答品に限られていました。鍋島藩の厳格な統制のもと焼成方法も極秘とされ、欠陥品もその場で処分されたといわれるので徹底振りが窺えますね。そのような体制であったため、一般の人は明治時代になるまで目にする機会がありませんでした。

 当時皿類に描かれた鍋島焼の意匠は、更紗文様などの染織品、刊行された小袖の雛形本(デザインブックのようなもの)から身近な草花などのデザインを巧みに取り入れていました。またこの作品のモチーフである水車は、同時代の伊万里焼においても早くから用いられ流行した文様です。

 さて、この「青磁染付 水車文 皿 鍋島」ですが、見方を変えるとまるで水車が海から昇る太陽のように思われます。濃淡使い分けられたダミの効果もあって、大海原の迫力が伝わってきます。一見スキがない高雅な皿ですが、実は構図に遊び心が潜んでいる作品なのです。江戸時代のトリックアートとして、ご鑑賞いただくのもお楽しみになれるかと存じます。

 皆様のご来館を心よりお待ちしております。


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