鈴の音が僅かに暑さを和らげる8月。夏本番の暑さが続きますが、皆様如何お過ごしでしょうか。
現在当館では、先月より引き続き「館蔵 鍋島焼名品展」を来月25日(日)まで開催中です。さて、今回ご紹介する作品は、第3展示室に展示されております「青磁 瓜形香炉 鍋島」(江戸時代、17世紀後半、通高12.3㎝)。
瓜の本体を蓋に見立てた内部は空洞で、蓋を取ると下方部はお香入れになっています。これらを組み合わせると、愛らしくも雅やかな香炉となります。今にもほのかに芳しい香りが立ちこめそうな作品です。ここ数年、アロマテラピーブームの影響もあり「香り」を気軽に楽しむ方も多いようですが、江戸時代にも「香り」ブームがあったのでしょうか。当時この瓜形香炉にはどんなお香が使用されていたのでしょう、興味を引かれますね。
作品を観ていると焼き上がりの釉調がやや青みがかった美しさで、新鮮な瓜の芳香が漂いそうです。葉や蔓に至る細部も極めて精巧に成型されており、鋭い観察力を感じさせます。その繊細な構成力と、豊かな表現力を併せ持つこの作品は、当時の陶工達の本領が発揮されているといえるでしょう。
17世紀末頃から18世紀にはこのような特殊な物に青磁作品が求められたようです。青磁とは、青い釉の掛かった高火度焼成のやきものをいいます。鍋島藩窯において使用された青磁の原料は、大川内山二本柳で採集される天然の鉱石に灰を混ぜたものだそうです。あがりの良いものは砧青磁に似た色を持ち、釉層は厚くなります。これは、何回も青磁釉を塗り、その回数だけ焼成を繰り返して出来上がったものです。鎌倉時代以来、日本では大陸渡来の青磁の優品が珍重されていたことから、鍋島藩でも青磁の焼成に力を入れていたのでしょう。実際鍋島藩窯からの陶片には、獅子形香炉などの細工物が見られます。これらの変わった器物の成型は当時「捻り細工」と呼ばれ、鍋島藩窯の陶工であった副島祐七などは良く知られています。
さて、この「青磁 瓜形香炉 鍋島」、当時はどのような人々の愛用品だったのでしょう。高雅な雰囲気が漂うこの香炉の所持者はやはり雅なる人物なのでしょうか。当時の時代背景や生活環境などを推測しつつ作品を愛でることも、より作品鑑賞をお楽しみいただける見方と存じます。
皆様のご来館を心よりお待ちしております。