学芸の小部屋

2005年9月号

  「紅葉狩り」

 夕暮れ時、鈴虫の鳴き声が秋の訪れを運ぶ長月。芸術・運動・食欲の秋の季節がやって参りましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。当館が位置する閑静な雰囲気の松濤界隈には、様々な文化施設が点在しております。この機会に散歩がてら美術鑑賞されるのも、「芸術の秋」をお楽しみいただけることでしょう。

 現在当館では、「館蔵 鍋島焼名品展」を今月25日(日)まで開催中です。

 その中で今回は、「色絵 紅葉幔幕文 皿 鍋島」(江戸時代、17世紀末—18世紀初、口径20.3㎝)をご紹介します。紅葉の樹に幔幕(横に長く張りわたす幕)の組み合わせの構図で、その絵画的な空間構成には静謐な詩情さえ感じられます。紅葉の鮮やかな赤色が印象的で、典雅な世界観を展開しています。この作品を観ていると、あたかも自分が自然の中で紅葉狩りをしているような錯覚を覚えませんでしょうか。それもそのはず、紅葉の樹に幔幕の組み合わせから、一般に紅葉狩りの文様と言われているのです。この場合、人物が描かれているのではなく、紅葉狩りをするのはこの作品の鑑賞者になります。このように、鍋島の文様にはともすれば見る者まで取り込んだ文様構成を見せるものがあります。面白みのあるこのお皿、何故このような構図が考えられたのでしょう?何かと多忙で紅葉狩りには出掛けられない人々のために作成されたのでしょうか。僅かな間でも鑑賞することで季節を感じられるこのお皿に、当時の人々は楽しみを感じたことでしょう。

 またこの作品の特徴として、裏面が無文であることが挙げられます。通常、鍋島焼は裏文様にも何種類かの決まったパターンがあるのですが、このお皿は何故か無文です。どうしてか興味を惹かれますよね。

 鍋島焼の絵文様の種類には、初期鍋島にみられる更紗文様などのように図案化されたものもあります。初期鍋島、盛期鍋島では極めて写実的に春秋の草木、草花類、野菜類、果実類などを中心として描かれました。

 構図が描かれる空間(皿の大きさ)は、最大30cm(尺皿)の円形で21cm(七寸皿)、15cm(五寸皿)、9cm(三寸皿)と小さくなっていきます。(この作品は七寸皿です。)この限られた空間の中で、構図の冴えが示されるといえるでしょう。大・小の空間各々に当てはまるような図様を練るのは難しいでしょうが、大皿には迫力のある図、小さなお皿には可憐な構図が見られます。各々の限られた空間の大きさに相応しい図様をぴたりと収めるところに、鍋島焼の技量が反映されていますね。

 さて、季節を先取りしたい方は、美術館での紅葉狩りをお楽しみください。この作品の他にも秋を感じさせる作品がございます。その中から是非皆様のお気に入り作品を探して季節の移ろいを感じられるのも、一興かと存じます。

 皆様のご来館を心よりお待ちしております。


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