学芸の小部屋

2005年10月号

  「初期伊万里」

 空の色や風向きが秋めいてきましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。

 当館では、10月1日(土)より「館蔵 初期伊万里と陶片展」を開催中です。

 今展は、江戸時代、中国や朝鮮半島から伝播した技術を学び誕生した「初期伊万里」がテーマです。小溝窯や天神森窯、山辺田窯より出土した陶片と、それに類似する当館所蔵の「初期伊万里」の伝世品を併せてご紹介いたします。

 有田を中心に肥前で生産が始まった国内初の国産磁器は、伊万里港から出荷されたため伊万里焼と呼ばれました。初期伊万里とは、初期の伊万里焼という意味で、1610年代〜1650年頃に生産されたものを指します。1637年になると窯場の整理・統合を経て磁器生産体制が確立され、初期伊万里を代表とする大鉢なども含め多彩な器形・文様が生まれました。

 さて、今回ご紹介する作品は、「染付 楼閣山水文 芋頭水指 伊万里」(江戸時代17世紀前期、高さ17.8㎝)。芋頭(いもがしら)とは、胴の中程から胴裾にかけて膨らんだ形の器です。ころんとした形態に愛らしい風情が感じられますね。水指は、水を入れておいて他の容器につぎ入れる茶道具の一つのことです。

 伊万里焼に茶道具があるのか?と思った方いらっしゃるかもしれません。実は、伊万里焼は発祥時より茶道具と密接な関わりがあったのです。江戸時代初期、茶人達は新たな茶道具を求めて中国の景徳鎮窯へ茶道具を注文し、その結果として古染付と呼ばれる茶道具が多く伝世しました。伊万里の茶道具は景徳鎮の作品をモデルとしましたが、古染付のようには人気が上がらず、日常使いの飲食器づくりを主軸として展開されるようになったのです。

 この作品には、楼閣(高く構えた建物)に二人の人物が橋を渡っている姿や、湖の水面・樹木などが描かれています。どことなく中国の説話の一場面といった風情を感じさせる構図ですね。山や水場が描かれているものを山水文とひとくくりにしがちですが、一つ一つをじっくり鑑賞すれば各々の個性を見出せることでしょう。

 無名の陶工達による屈託のない大らかな作風の初期伊万里。今回は中国製(景徳鎮)の同意匠の作品が展示されています。日・中各々の相違点を見出すことも作品鑑賞をお楽しみ頂けることかと存じます。

 皆様のご来館を心よりお待ちしております。


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