ポインセチアやツリーで彩られる街中。クリスマス・大晦日と行事続きで何かと忙しい師走の季節となりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。
現在当館では、「館蔵 初期伊万里と陶片展」を今月25日(日)まで開催中です。今年最後の紹介作品は、初期伊万里の流れを受けた古九谷様式の染付磁器「染付 竹虎文 捻花形皿」(江戸時代、17世紀中葉 口径20.8㎝)。竹林に潜み正面を見据えた虎が描かれた中皿です。鑑賞していると何だか虎に睨みつけられているように感じませんでしょうか。それは、見込に描かれている竹虎文の力強い筆致や染付の濃淡が印象に残るためかと思います。竹虎文は、絵手本などに倣った図柄で狩野派の桃山障屏画に見られ、古くから親しまれてきた主題で、17世紀中葉における伊万里焼の皿にしばしば見られるようになった意匠です。
この作品は轆轤(ろくろ)びきの後、型にあてて口縁を捻花(ねじばな)に作り、縁紅(ふちべに)を施して焼造されています。捻花とは、見込み底から捻上げるように放射状に立ち上がる捻文を描いたり、器皿に線刻で十数条の放射状の溝をつけることで、全体が大輪の花を連想させる意匠取りのことです。この細工を施すことにより、額縁をつけたように竹虎文を引き立たせる効果が感じられます。また、縁紅とは白磁器の口縁部を縁取る鉄呈色の褐色の帯文様のことで、口紅・寂斑(さびぶち)ともいいます。白磁の釉面に酸化第二鉄で色付けする技法で、どちらの技法も中国の景徳鎮窯により明末期に開発されました。
初期伊万里の末期になりますと、古九谷様式の要素を備えた藍九谷と呼ばれる染付作品がでてきます。今回ご紹介している作品のように口縁に捻りの入った皿や、深みのある呉須を用いた染付磁器がそれに相当すると考えられます。藍九谷は生掛け焼成し、砂が高台の畳付(たたみつき)に付着している場合があるという点では、初期伊万里と技術的に連続していることがわかります。しかしながら、初期伊万里との相違点として、絵付職人の腕の上達により絵付が格段に巧くなったこと、濃い濃み・薄い濃みの描き分けができ染付の発色が安定したこと、高台内に銘を入れることが飛躍的に多くなるなどその意匠や成形法には格段の進歩が窺えます。
さてこの作品には、平皿に文様を描きその部分を白く染め抜いて、染付の顔料である呉須を吹き付ける吹墨の技法が用いられています。中国の景徳鎮の影響を受け、藍染めの世界から応用されたと思われるこの吹墨は日本人好みの技法として、現在でも用いられています。この作品の場合、兎・雲・短冊の形に切った紙を置き、染付を吹きかけることで、白抜きの文様を浮かび上がらせています。兎の顔や文字は後から書き加えられた様です。吹墨のぼかしが柔らかで幻想的な雰囲気を醸し出すこの中皿は、まさに初期伊万里を代表する名品といえるでしょう。
また、紹介作品が展示されている陳列台の右隣には、同意匠の作品がございます。各々見比べて相違点を探し出すことも、伊万里焼鑑賞の楽しみが加味されることと存じます。
皆様のご来館を心よりお待ちしております。
本年は誠にありがとうございました。良いお年をお迎えください。