学芸の小部屋

2006年1月号

  伊万里焼の茶道具−水指編−

 明けましておめでとうございます。
 本年も何卒宜しくお願い申し上げます。

 戸栗美術館では、2006年1月6日(金)〜3月26日(日)まで館蔵『伊万里焼の茶道具と花器』展を開催いたします。今展覧会では当館所蔵の伊万里焼より、“茶の道具”に関連した作品を主軸として特集展示しています。また第3展示室では“酒にまつわる器”を集めた館蔵『古伊万里−酒器を愉しむ−』展も併設展示しておりますので、どうぞこちらも併せてお楽しみください。

 さて江戸時代の茶道具といえば、やはりそこは陶器製のやきものが主流をなす「侘び寂」独特の世界。
 「そもそも土モノ(陶器)の温もりが好まれた茶席上で、石モノ(磁器)の茶道具は用いられたのか?」
 やきものにご興味をお持ちのお客様ならば、一度はこのような素朴な疑問を抱いたご経験があるのではないでしょうか?残念ながら茶席のメインを飾った陶器製の茶道具に対し、磁器製の茶道具の伝世数は極めて少量なのですが、江戸時代に誕生した伊万里焼において水指、香炉などは焼造されており、今日でも比較的多く伝世している茶道具の一種です。この当時の茶人たちは、唐津や織部などの土モノ(陶器)の茶道具とは趣の異なる、青料の発色が美しい染付磁器を取り入れることで、茶界に新たな旋風を巻き起こそうと考えていたようです。そのため江戸時代の茶席では、作意に満ちた独特の味わいを誇る陶器の茶道具に混じり、染付や色絵で装飾された優美な作風の磁器の茶道具も用いられていたと考えられます。

 新春第1号[学芸の小部屋]では、そうした伊万里焼の茶道具類より水指の作品をご紹介いたします。第1展示室内に飾られている《銹釉染付 松竹梅文 水指 伊万里》 (江戸時代 17世紀中葉/通高21.3cm 口径12.5cm 高台径9.4cm)。下部は緩やかに面取りした丸形、上部は太い筒状形というそのどっしりと安定感のある独特なフォルムが、鑑賞者の目を惹く印象的な共蓋付きの水指。一見すると陶器製のやきものと見間違えてしまいそうですが、銹釉を主体としたこの水指には、独創的な装飾技法が用いられています。

 まず、上部の筒状部分に施された点線状の文様。こちらは「飛び鉋(とびかんな)」と呼ばれる装飾技法を利用し、器をのせた轆轤(ろくろ)を回転させながら、銹釉を施した素地部分に鉋を当てることで、不規則に点字を打ったような波状の削り目を作り出しています。一方、丸みを帯びた胴部の大部分は、釉薬(ゆうやく)を施釉せず露胎のままとし「ヘラ彫り」によって葉文様を表現、面取りし四面に設けた窓内のみ、松などの意匠をそれぞれ染付で描いています。また通常壊れて失われることの多い共蓋には、当時の陶工たちの卓越した技量を感じさせる、「貼付(はりつけ)」の技法で梅枝を模したつまみが装飾されています。この梅枝のつまみが程良いアクセントとなり、他の伊万里焼と比較すると、形も様子も趣の異なるこの水指独特の重厚な雰囲気を和らげ、愛らしさを添えています。

 伊万里焼に代表される「白い素地に藍色の文様」という染付の装飾を最小限に抑え、銹釉をメインに釉薬の「掛け分け」や、「飛び鉋」、「貼付」や「ヘラ彫り」による文様表現など、この水指には当時最高の装飾技術がふんだんに盛り込まれています。磁器の硬質感に、陶器のもつ独特の温かみを加味したような作風は、おそらく茶人の嗜好を反映した特別なオーダーによって生まれたものと考えられます。

 はたしてこの端正な器形の水指の周辺に、当時の茶人たちは一体どのような茶道具を取り合せていたのでしょう? 今展覧会では「私なら茶碗は…、茶入は……。」などと、あれこれイメージを膨らませながら、自由な発想のもとに作品鑑賞をしてみてはいかがでしょうか?

 今年度も多くのお客様のご来館を、職員一同心よりお待ちしております。


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