学芸の小部屋

2006年2月号

  染付 亀甲文 筒形茶入

 暦の上では立春となりました。しかし今年度は例年より一段と冬の寒さを感じられるかと思いますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?

 現在当館では3月26日(日)まで館蔵「伊万里焼の茶道具と花器」併設 館蔵「古伊万里—酒器を愉しむ—」展を開催中です。今展示では江戸時代に焼成された伊万里焼の中から茶道具である水指、香合、香炉、茶碗などをはじめ、花器を中心に展示しています。桃山時代に焼成された志野・唐津・織部などの土もの(陶器)の茶道具とは異なった染付磁器を取り入れることで、茶界に新たな旋風を巻き起こそうと考えた日本の茶人たち。その茶人たちによる茶界に対する熱き想いからはじまった伊万里焼の茶道具の世界を、ぜひお楽しみください。

 さて今回は、第1展示室より「染付 亀甲文 筒形茶入 伊万里」【江戸時代(17世紀前期) 通高6.2cm】をご紹介いたします。筒状の中継ぎ(中次)型といわれる器形の側面に亀甲文様を描き、また上部には籠に入った草花を大変に力強く描いた茶入です。中継ぎ(中次)とは上部である蓋と身の大きさが等しい作品のことで、主に木地のものが多く磁器では珍らしいため貴重な作品です。おそらくは茶道具としての茶人による特注品であろうと考えられています。

 側面全体に描かれている亀甲文とは、正六角形を連続して組み合わせる抽象的な文様である幾何学文様のことをいいます。初期伊万里からこの亀甲文をとりいれた作品がみられますが、磁器の生産量の増える17世紀後半に盛んに用いられるようになります。中国文化圏の国々においては長寿を表現する文様としてこの文様は古くから使われ、わが国においても奈良時代の染織品、そして平安時代の衣料、調度の文様として使用されていました。また幾何学文様は陶磁器をはじめ能装束、着物、建築装飾などに使われるなど多くの作例においてみることができます。

 この作品をよくみると、見た目は小さい器物ながらもどこか大きな存在感と斬新な印象が感じられるかと思います。それは器面全体に文様を余白がないまでに描く埋詰(うめづみ)とよばれる技法を使用することで、作品の主題を引き立て、存在感を高めているためです。また側面の亀甲文を一線一線細かく丁寧に描いているため、作品全体に緊張感さえも与えます。

 見た目は小さい器物ながらも凛とした姿。そして初期伊万里の初々しさが感じられるこの作品。陶工がどのような想いで一線一線細かく丁寧に筆を染めたのか、また茶席にこの作品が置かれた光景など、想像を巡らせるのも作品鑑賞の愉しみの一つかと思います。

 皆様のご来館を心よりお待ちしております。


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