少しずつ気候も暖かくなってきて、花屋の前を通るのが楽しみな季節となって参りました。皆様いかがお過ごしでしょうか。現在、当館では「17世紀の伊万里焼」、併設といたしまして「吉祥文様—伊万里・鍋島—」展を6月25日(日)まで開催しております。
「初期伊万里」の染付作品から、色絵技術の完成と共に焼成されることとなった「古九谷様式」、「柿右衛門様式」の色絵作品を中心に展示しております。現在展示されている作品の中から、今回学芸の小部屋では「色絵 花鳥文 輪花台鉢 伊万里(古九谷様式)」【江戸時代(17世紀中葉)、高さ10.6cm、口径31.9cm】をご紹介いたします。
この作品は、やや深めの皿に高い足をつけた台鉢と呼ばれる形で、口縁が輪花形に作られています。見込一面に、唐草文、茶と黄色の花、三羽の飛翔する黄色の鳥の姿を配しています。裏面には、茶色で輪郭を取った吉祥文様が大胆に描かれ、厚手の高台上下部分に赤絵の二重線、その内側には緑、赤、黄色で波文を巡らせている17世紀中葉に誕生した古九谷様式の作品です。
皿上を優雅に飛翔する三羽の鳥、そして見込一面に描かれた牡丹唐草が丁寧に絵付されたこの作品。空を飛翔している三羽の鳥を地上から仰ぎみるように描かれた自由な構図は、大胆で独創的であり、開放的な空気を作品に与えているといえるでしょう。
このような古九谷様式の色絵磁器の中でも、緑・黄・赤・青・紫の上絵具で描かれた作品は「五彩手」と呼ばれ、中国の文様構成から大きな影響を受けたと言われています。「五彩手」はそれらの色を生かすことで描写に豊かな表情を持たせ、優美さと味わい深さを合わせ持った、より絵画的な独自の世界観を作り出したのです。
また作品の名前に使われている「輪花」というのは、器に施す装飾のことを示し、円形の器全体がまるで一輪の花房のようにみえることから、このような名前が付けられたと考えられます。この作品では、器形を輪花形にすることによって大きな皿に華やかな表情をもたせることが可能となり、そこに高めの高台を組み合わせることにより、華麗であると同時に格調高さを表すことにも成功させているのです。
もともと台鉢とは神に捧げられた器に系譜を辿ることができるという点から聖性を表す器種であると言われています。またその一方で、伊万里焼の古九谷様式の一群には当時の茶人達の嗜好が色濃く反映された茶懐石道具類が伝世しており、台鉢は茶懐石の盛り込み鉢としても用いられていたと考えられています。この作品の場合、裏面におめでたい文様である吉祥文様が描かれている点から、宴を盛大に祝うための大きな役割を果たしていたと想像することができます。
春の陽気に誘われて、お出掛けにはもってこいの季節となって参りました。お出掛けの際にはぜひ当館までお立ち寄りいただき、伊万里焼の歴史に触れていただければ、と思います。
職員一同、お待ちしております。