学芸の小部屋

2006年5月号

色絵 柘榴鳥文 皿 伊万里(柿右衛門様式)

江戸時代(17世紀後半)

 移り気な天気に悩まされながらも、緑に色づいた葉や木々が清々しく感じられる季節になって参りました。皆様いかがお過ごしでしょうか。現在、当館では「17世紀の伊万里焼」、併設といたしまして「吉祥文様─伊万里・鍋島─」展を6月25日(日)まで開催しております。

 「初期伊万里」の染付作品から、色絵技術の完成と共に焼成されることとなった「古九谷様式」、「柿右衛門様式」の色絵作品を中心に展示しております。現在展示されている作品の中から、今回学芸の小部屋では「色絵 柘榴鳥文 皿 伊万里(柿右衛門様式)」【江戸時代(17世紀後半)、高さ4.1㎝、口径25.1㎝】をご紹介いたします。

 この作品は、(濁手)の素地に柘榴、、そして軽やかに飛び交う双鳥文が描かれた柿右衛門様式の中皿です。この作品を見てまず始めに目に飛び込んでくるのは、赤く絵付けされた柘榴であり、潤いを含んでいるかのような鮮やかさを持つこの柘榴は、この作品の主役とも言えるほど強い存在感を示しています。柘榴は西アジアよりシルクロードを経て、中国に伝来した果実で、実の中に多数の種を付けることから子孫繁栄を寓意する「吉祥果」として扱われてきました。一方、日本においては鬼子母神の象徴として「吉祥果」とされてきました。鬼子母神とは、仏法の護法神で求児・安産・育児等の子供に関係した祈願を叶えてくれる神様であり、一児を懐に入れ、手には柘榴を持っていることから柘榴が鬼子母神の象徴と言われてきたそうです。「吉祥果」である柘榴のまわりを二羽の蝶が舞っている文様が描かれているこの作品は、人々の願いや喜びを表現しているのではないでしょうか。

 柿右衛門様式の特徴として、精巧に成形された乳白色の素地に赤を基調とした華やかな色絵で上絵付けされている作品が挙げられます。「米のとぎ汁」から命名されたと言われる乳白手(濁手)の素地に、目も覚めるような鮮やかな赤色で絵付けされたこの作品。文様を非対称に配置した絵画的な意匠に装飾空間を十分に心得た画面配置、そして優雅でいて繊細な筆使いはそれまでの古九谷様式の色絵とは異なる洗練された柿右衛門様式ならではの完成美を確立していると言えます。更に「縁紅」と呼ばれる皿の縁に塗られている銹釉が、この作品全体を引き締める役割を担っていると言えるでしょう。

 今展示では、今回ご紹介した柿右衛門様式の作品だけでなく、17世紀に飛躍的な発展を遂げた伊万里焼の変遷をお楽しみいただけます。江戸時代の人々のさまざまな願いや想いを込めて作られた伊万里焼をぜひ一度当館にてご覧ください。職員一同、皆様のご来館をお待ちしております。


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