学芸の小部屋

2006年6月号

色絵 婦人像 伊万里(柿右衛門様式) 

江戸時代(17世紀後半)

 すっかり新緑の季節となりましたが、傘が手放せないお天気が続いていますね。皆様いかがお過ごしでしょうか。現在、当館では「17世紀の伊万里焼」、併設といたしまして「吉祥文様─伊万里・鍋島─」展を6月25日(日)まで開催しております。

 「初期伊万里」の染付作品から「古九谷様式」、「柿右衛門様式」の色絵作品まで江戸時代を通して技術面で最も飛躍的な発展を遂げた17世紀の伊万里焼の変遷を、様式美と共に展観いたします。現在展示されている作品の中から、今回学芸の小部屋では「色絵 婦人像 伊万里(柿右衛門様式)」【江戸時代(17世紀後半)、高さ39.2㎝】をご紹介いたします。

 この作品は、柿右衛門様式の作品の中でも代表的な婦人像だといえます。型による成形のため同じ顔、姿の像が多く残っていますが、上絵付の際の眉、眼、口の描き様で各々微妙に表情が異なり、衣類の文様の違いで趣にも変化があります。御所髷(ごしょまげ)という寛文から元禄頃に流行した髪形で、打掛の文は寛文頃出版された衣装文様集からとったと考えられており、時代性をあらわしていると同時に作品に華やかさを与えています。

通常、柿右衛門様式の皿や鉢などの作品において黒という色面は使用例がみられないものですが、これらの人形においては黒が使われており、髪の毛の絵付にどのような黒が使用されているかでその人形の制作年代を判別するという方法をとる場合もあります。また、17世紀に制作された伊万里焼における皿や鉢などの作品に描かれていた人物は、殆どが唐人(中国人)であったのに対して、この婦人像には日本女性が描かれているといった点も、興味深い事実であるといえるでしょう。

 柿右衛門様式の人形には、婦人像の他にも、鶏(にわとり)、鸚鵡(おうむ)、象、獅子などの動物人形があります。これらの人形は、柿右衛門様式の皿や鉢にみられる典型的な濁手(にごしで)(乳白手)で作られるのではなく、やや粘り気があり、鉄分が通常よりも多く配合された素地で作られています。その理由として、濁手(乳白手)は鉄分を殆ど取り除いて作られるため、粘り気が無くなってしまい、人形など細かい作業を要するものには向かないためと考えられています。

 今回ご紹介している人形をはじめ、典型的な柿右衛門様式の作品は主にヨーロッパに渡っていた例が多いことが広く知られています。また、実際に日本での出土例も少ないため、柿右衛門様式の作品は主に輸出用だったと認識されています。日本女性を象(かたど)ったこれらの人形をみて、当時のヨーロッパの人々は遠い異国の地についてどのような想いをはせたのでしょうか。

今展示では併設展といたしまして、おめでたい文様として人々に好まれ、江戸時代を通して盛んに用いられた、盛期作品を中心とする伊万里焼、鍋島焼より「吉祥文様」の作品を展示しております。あわせてお楽しみいただければ幸いです。職員一同、皆様のご来館をお待ちしております。

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