まだまだ残暑の残る毎日ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。現在当館では、9月24日(日)まで「古伊万里唐草」展を開催しております。
唐草文様に焦点をあてた今展示ですが、その中で今回学芸の小部屋でご紹介いたしますのは、「染付 獅子花唐草文 長皿 伊万里」[江戸時代(18世紀初)高さ2.8㎝ 口径22.6×9.6㎝ 高台径15.6×4.7㎝]です。この作品は花唐草で器面を埋めた長皿で、繊細な花唐草の中に二匹の獅子が描かれています。口縁の四隅に切り込みが入ることで凝った印象が与えられ、丁寧な染付からは上品な雰囲気が感じられます。跳ね戯れる二匹の獅子は、ユーモラスな表情で、どことなくコミカルで愛らしい意匠です。裏面には表面とはまた違った意匠の花唐草がわずかに描かれ、櫛目高台に「大明成化年製」の銘を記しています。当館では5枚組として所蔵しておりますが、今回はその中の1枚の出展です。
軽やかな唐草に配されている花は、獅子との組み合わせからも見て、牡丹がモチーフとなっていると考えられます。細かな唐草の中に規則的に配置された大輪の花は二匹の獅子と共に唐草のアクセントとなっています。牡丹は中国においては百花の王として好まれ、その豊かで絢爛な容姿から富貴花として親しまれていました。牡丹に唐草を加えた牡丹唐草文様も、唐草のもつツルを意味する「曼」「帯」の音が「万代」に通じることもあり、永遠に富み、貴くあることを願った「富貴万代」の吉祥文とされていました。しかしこの作品の花においてはそういった牡丹の絢爛さというよりは、花唐草の可憐さをひきたたせるかのように軽やかな意匠で描かれています。牡丹に戯れる獅子は架空の動物で、龍や鳳凰、麒麟などと共にもともとは中国で縁起が良いとされてきた「瑞(ずい)獣(じゅう)」です。中国では高貴な霊獣とされているのに対し、伊万里焼の上に描かれた獅子は豊かな表情をもっておかしみを誘うものも多く、この作品の獅子たちもどこかユーモラスです。器面を埋め尽くす花唐草に囲まれた獅子は可愛らしく躍動的で、まさに唐草に戯れているという表現がぴったりではないでしょうか。この牡丹と獅子という組み合わせは定番であるため、牡丹とともに描かれる獅子の意匠を見かける機会が多くあると思われます。伊万里焼のいろいろな獅子を見比べて、お気に入りの獅子を見つけるのも楽しいかもしれません。
花唐草をあしらったうつわには高級品として作られたものが多く、丁寧な染付で描かれた繊細な蔓や葉と可憐な花は、しなやかに伸びゆく凛とした美しさや軽やかな可愛らしさがあります。力強いエネルギーを多分に秘めた感のある蛸唐草とはまた違った、爽やかさが感じられる唐草文様といえるでしょう。初期伊万里に描かれた素朴な唐草や、可憐な花唐草、庶民のうつわに描かれていた蛸唐草など、さまざまな魅力をもつ唐草文様。それらの変遷を当館にてごゆっくりとお楽しみ下さい。 今回ご紹介した獅子と牡丹の他にも、鹿と紅葉、竹と虎、兎と月などの組み合わせも伊万里焼の器面において多く見られる文様です。9月30日(日)より開催いたします次回展示では「古伊万里にみる花と動物たち」展と題しまして、うつわを彩る花と動物たちに焦点をあてた展示を行う予定となっております。
職員一同、皆様のお越しをお待ちしています。