学芸の小部屋

2007年4月号

「青磁瑠璃銹釉 鶴亀松竹梅文 三足皿 伊万里」

江戸時代(17世紀中葉)

  すっかり春らしく過ごしやすい陽気になってまいりましたこの頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

    戸栗美術館では、4月1日(日)より 6 月24日(日)まで「開館20周年記念 戸栗美術館名品展Ⅰ−古伊万里・江戸時代の技と美−」を開催しております。 1 年間にわたって開催する開館20周年記念展の第 1 弾となります今展示は、当館のコレクションの核をなす古伊万里の中から、今回初出展となる作品を織り交ぜながら厳選しておおくりいたします。約100点の出展品の中から今回の学芸の小部屋では、「青磁瑠璃銹釉 鶴亀松竹梅文 三足皿 伊万里」[江戸時代( 17 世紀中葉)高 9. 5 ㎝ 口径 22. 2 ㎝]をご紹介いたします。
   
  17 世紀初頭に誕生した伊万里焼ですが、 17 世紀中葉の色絵の誕生までは、染付が器面の装飾として代表的な存在でした。それはコバルトを含んだ 呉須 ( ごす ) という顔料で絵付けをし、その上に透明釉をかけて焼くという方法で、白い器面に藍色の文様が描かれている作品になります。染付以外で色彩を利用した装飾をする場合は、透明釉に鉄などを含ませて釉薬自体を発色させる方法がとられていました。こういった方法で使われるのが青磁釉や 銹釉 ( さびゆう ) 、 瑠璃釉 ( るりゆう ) などです。青磁釉や銹釉は、鉄を含有しており、その量によって青緑に発色したり、また茶色に発色したりします。瑠璃釉は染付と同じ顔料である呉須を含んでおり、濃い瑠璃色に発色します。これらのさまざまな釉薬をひとつの作品の中で文様によって掛け分けて、色を表現するという方法もとられました。

この作品は、まさに釉薬を掛け分けた作品で、確かな技術によって完成された、 17 世紀中葉の名品のひとつといえます。見込みには 青海波 ( せいがいは ) を背景に 2 羽の鶴と亀、松、竹、梅が陽刻で描かれています。青海波は無釉ですが、虎、松の木、梅の花や鶴のくちばしは銹釉、松の葉と梅の木は瑠璃釉、竹の葉は青磁などと細かく釉薬の掛け分けがされており、その濃淡も影響して絵画のような風景を描き出しています。見込みの周りは細い銹釉と太い瑠璃釉で囲み、これはあたかも額のように見込みの文様全体をまとめて引き締めているでしょう。鶴亀は長寿を願う吉祥文、松竹梅も吉祥文として古くから好まれている文様ですから、これらの文様を組み合わせることでよりいっそうの吉祥を願っているかのようです。 鐔 ( つば ) 状に広がる縁の部分は、葡萄文を描き一周させていますが、葉を一枚ずつ青磁と銹釉で分け、葡萄の房は瑠璃釉、また背景は透かし彫りをするという装飾技法がふんだんに使われています。裏面はうっすらと唐草文を彫って青磁釉を掛け、三足の足がついています。 鐔 ( つば ) 縁 ( ぶち ) の部分と蛇の目となっている高台は無釉となっています。色釉による発色のため色彩は落ち着いていますが、その中でも華やかさや格調高さが表わされているのではないでしょうか。このような作風の伝世品は稀少ですが、当館ではこの作品と同じように、陽刻された文様に釉薬を掛け分け、三足が付くタイプとして竹虎文と鷺龍文の作品を所蔵しています。今回の展示ではこれらも出展しておりますのであわせてご覧いただけます。こうした細かい細工で丁寧に作られた作品を見ると、江戸時代の陶工たちの技術や工夫に改めて驚かされます。古伊万里の奥深さが感じられる逸品ではないでしょうか。

戸栗美術館では開館 20 周年記念にあわせ、館内インテリアやミュージアムショップもリニューアルいたしました。これからもますます皆様に愛される美術館をめざして努力してまいりますので、どうぞご期待ください。皆様のご来館を心よりお待ちしております。


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