学芸の小部屋

2007年5月号

「色絵 荒磯文 鉢 伊万里」

江戸時代(17世紀末〜18世紀初)

 新緑がまぶしく爽やかなこの頃ですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。戸栗美術館では現在、開館 20 周年記念展の第一弾となる「戸栗美術館名品展Ⅰ−古伊万里・江戸時代の技と美−」を 6月24日(日)まで開催中でございます。戸栗美術館のコレクションの中核となっている古伊万里の中から選りすぐりの作品をご紹介しております。

  そんな展示中の作品から、今回の「学芸の小部屋」では、「色絵 荒磯文 鉢 伊万里」[江戸時代(17世紀末〜18世紀初)高 7.7 ㎝ 口径 12.6 ㎝ 高台径 12.6 ㎝]をご紹介いたします。


この作品は、見込みに荒磯(あらいそ)文様と呼ばれる、波間に踊る鯉の図を染付で描き、周囲を染付、色絵、金彩の唐草文で埋めており、古伊万里の金襴手の中でも「型物(かたもの)」とよばれる作品群の代表作です。江戸時代の元禄年間に、力をつけた町人や商人たちに好まれたのが、中国磁器の金襴手に倣った古伊万里金襴手です。染付と色絵、さらに金彩を施した豪華絢爛な金襴手ですが、その中でも決められた題材の文様が描かれた最高級のものは「型物」と呼ばれて古伊万里の中でも高い評価がされています。これはその中でも明時代の萌黄地金襴手に倣ったものでしょう。大変丁寧な作りで見応えがあることはもちろんですが、背景の明るい緑彩の色が全体の印象を穏やかで品格高いものにしています。外側は菊座とハート型の文様を唐草文で繋ぎ、高台内には目跡 1 箇所を残しています。

そして、大変珍しいことに、染付の同柄の鉢も存在しています。「染付 荒磯文 鉢 伊万里」[江戸時代(17世紀末〜18世紀初)高 8.3 ㎝ 口径 26.1 ㎝ 高台径 12.5 ㎝]は、本来ならば染付で絵付けし施釉、本焼した後上絵具を焼き付けて完成するこの型物の半製品にあたり、色絵作品と比べてみても、ぴったりと上絵具にあたる部分が白く抜けているおもしろい作品です。型物の染付下絵の手本として残されたのか、それとも注文主の事情によるものなのか、様々な想像を巡らせることができますね。こうして名品と名高い作品の製作途中を垣間見て、思いを巡らせるのも江戸時代の技と美に触れるひとつの機会となることでしょう。

  余談ですが、戸栗美術館ではこの2つの作品のおもしろさに着目して、クリアファイルを作りました。そのままだと色絵の荒磯文、紙を入れると裏側に染付の荒磯文が現れる楽しいしかけになっています。

  初期伊万里の素朴なうつわから、古九谷様式の力強さ、柿右衛門様式の華麗な作品など、古伊万里はとても幅広い魅力にあふれていますが、 17 世紀の古伊万里の発展の集大成ともいえる金襴手は、まさに祝祭感にあふれた華やかさがあります。今回の「戸栗美術館名品展Ⅰ−古伊万里・江戸時代の技と美−」にて、そんなひとときの贅沢をご堪能いただければ幸いです。

みなさまのご来館をお待ちしております。

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