学芸の小部屋

2008年1月号

「色絵 鳳凰文 皿 鍋島」

江戸時代(17世紀後半)

新年明けましておめでとうございます。
 2008年も戸栗美術館はさまざまな企画展を通して、うつわの魅力をお伝えしていきたいと思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 昨年の4月より開催してまいりました20周年記念展もとうとう今回で最後となってしまいました。2008年最初の展示は、1月5日(土)〜3月23日(日)まで、『開館20周年記念 戸栗美術館名品展 鍋島—至宝の磁器・創出された美—』を開催いたします。今展示では、17世紀後半頃より作られたとされる初期鍋島から、17世紀末〜18世紀初に作られた盛期鍋島を中心に約100点、当館の鍋島コレクションから出展しております。時代を通観し、様々な技法を網羅する豊富な内容となっております。名品揃いの展示をどうぞご覧ください。

 今年初めにご紹介いたしますのは、『色絵 鳳凰文 皿 鍋島』[江戸時代(17世紀後半)]です。『鍋島』展ではポスターやチラシに使用い、展示室ではまず一番初めのケースに飾っており、今展示の主役的存在の作品です。見込みに鳳凰を二羽、円を描くように飛び舞う優美な姿を描いた七寸皿です。染付で全体の輪郭線を描き、その上に赤・緑・黄色の三色の顔料を使って彩りを加えています。高めの高台に薄手の浅い皿が乗った器形は、17世紀後半に作られた初期鍋島の皿では典型的なものです。見た目よりも薄手で、手応えがあまりない程ふわりと軽いうつわです。裏文様は花唐草文、高台には四方襷(よもだすき)文がめぐらされています。

 さてこの作品をよく観察してみたいと思います。このうつわ、背景は白磁を呈しています。伊万里焼ならば、おそらく余白を埋めるような花唐草文や、背景によく使われる山水文などが描かれるとも考えられますが、このうつわでは、無文によって背景の空間をあらわしています。しかし無文だからといって寂しい画面にはなっていないのが、鍋島焼の技術の高さであるともいえます。その理由としてモチーフの装飾性や豊かな色彩といった点が考えられます。これらの要因によって、白磁の上で優美な鳳凰が際立ち、また端正な雰囲気を作りだしていると考えられるのではないでしょうか。

 まずモチーフの装飾性についてですが、鳳凰の描写方法にも様々な工夫が見てとれます。染付の線によって一本一本の羽毛が丁寧に描かれています。また両者の長い尾に注目してみると、丸い器面に沿うように描かれた尾は鳳凰の身体の二倍以上もあります。ところどころで渦巻き枝分かれしており、その様子はまるで唐草文様を連想させます。さらに赤い顔料で細かく羽毛を描いていることで華やかさを増しています。

 この二羽は色彩や羽毛の描き方に違いが見られます。よく動物を紹介するテレビ番組などでは、雄と雌では色鮮やかな羽を持っている方が雄であるといわれていますが、この二羽の鳳凰の区別はつくでしょうか?どちらかと確定することは出来ませんが、おそらく向かって左側の頭を下にした方が雄ではないかと考えられます。頭部に羽毛をたくさん生やし、胴体部分に赤い上絵の具をのせ、心なしか強そうな印象を受けます。このように同じ姿の鳳凰を二羽描くのではなく、シンプルな中にも多様性を持たせています。

 豊かな色彩も工夫の一つです。染付の青と上絵の具の赤・緑・黄色という四色は、鍋島焼の統一された色数です。しかし、この器にはそれ以上の色を見ることができます。向かって右の鳳凰の首と尾部は紫色を呈していますが、これは染付に上絵の具の赤を重ねることによって紫色に見せているのです。また同じ赤い上絵の具でも、もう一方の鳳凰には胴体部分にグラデーションをかけており、薄い赤色から濃い赤色を作りだしています。同様に重ねる技法では、向かって右の鳳凰の胴体・羽部分に、染めダミと緑の上絵の具を使ってエメラルドグリーンのような青緑色を見ることができます。このように、限定された色数の中で色彩豊かな画面を作りだそうとする創意工夫が至るところに散りばめられているのです。

 この作品の優美な印象をつくり出す要因を考えてきましたが、初期の鍋島焼は、最盛期の「盛期鍋島」のように何もかもが完璧、とまでは行かず、さまざまな試行錯誤が垣間見られます。しかし当時としては最高の技術をもって作られた特別な器であることに変わりはありません。染付のムラや器形のわずかな歪みなどは、逆に盛期鍋島には見られない素朴な味わいとして感じられるのではないでしょうか。今展示ではこの初期の鍋島焼も多く出展いたします。時代を経るに従って変化する鍋島焼の様子やその印象の違いに注目していただき、鍋島焼をつくりだした陶工達の熱意を感じ取っていただきたいと思います。
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