学芸の小部屋

2008年5月号

陶片

 新緑が爽やかな季節となりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 戸栗美術館では引き続き、「初期伊万里展-素朴と創意の日本磁器-」を開催しております。

 さて、毎回名品ばかりを紹介している学芸の小部屋ですが、今回は陶片(かけら)について考えてみたいと思います。かけらなんて使えないし綺麗でもないし、価値がないのでは…と思われる方も多いかもしれませんが、陶磁器の研究には欠かせないものなのです。

 陶磁器を焼いた時、失敗作を捨てた物原(ものはら)といういわばゴミ捨て場があります。窯跡や物原から発掘された陶片は製品同士くっついてしまったもの、歪みがひどくて捨てられたものなど状態は様々です。トチンという、成形したうつわを焼く時に乗せる台がありますが、焼いている間に乗っていた製品が落ちてトチンにくっついてしまったものなどを見て、高温の窯の中で何が起きたのか想像してみるのも面白いと思います。こうした陶片は江戸時代にどの窯でどのような製品が焼かれていたのか、どのように窯詰めをしていたのかを知る手がかりになります。 
 山辺田窯(やんべだよう)からは、葉を丸い点であらわした唐草文様を縁の装飾にした大皿の陶片がたくさん発掘されました。完品としても、その特徴的な装飾を持った大皿が伝世しています。下の写真は、左が伝世品の「染付 山水文 鉢」〔江戸時代(17世紀前期)高:13.5㎝ 口径:47.1㎝ 高台径:12.0㎝〕、右が山辺田窯出土の陶片で、縁の文様がよく似ており、陶片にも山水文らしき絵が描かれています。伝世品だけを見ていたのではどこで作られたのかわからないけれども、陶片と照らし合わせると山辺田窯の製品である可能性が高い、ということがわかってきます。
 

 伊万里焼草創期の窯では、重ねた製品がくっつくのを防ぐために胎土目(たいどめ)という団子状の粘土を挟んで焼くことがありましたが、胎土目そのものが製品にくっついてしまった陶片も出土しています〈右の写真、小溝窯(こみぞよう)出土の陶器片〉。この陶片は裏の高台脇にも胎土目が残っていて、上下に製品が重なっていたことがわかります。

 断面を観察することで技法の研究にもなります。釉薬のかかり方や素地の様子は断面を見なければわからないことも多いのですが、まさか完品を割ってみるわけにはいかないので陶片を観察することになります。例えば青磁の釉薬は厚い層になっていますが、同じ鉄を呈色剤にした釉薬でも銹釉(さびゆう)は非常に薄くかけられています。また、染付の顔料である呉須(ごす)は釉薬に溶け込んだ状態になっていることもあり、呉須と釉薬の層にはっきりわかれて見えることもあり、素地にくい込んだように沈んで見えることもあります。これが技法による違いなのか、焼成時の変化によるものなのか、興味深いところです。

  現在では窯跡だけでなく全国各地から出土している陶片によって、流通の研究も進みつつあります。陶片は素材、製作、流通、使い方など様々なことを語ってくれる貴重な資料なのです。今展示では、特別展示室で陶片を使って焼成技術や初期伊万里の窯場を紹介しておりますので、ご覧ください。
 職員一同、お待ちしております。
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