そろそろ夏の到来を迎える時期となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。現在当館では、「古伊万里展 いろゑうるはし」を開催しております。伊万里焼の色絵磁器に的を絞って、華やかな展示内容となっております。
さて今回ご紹介するのは、初出展作品『色絵 布袋文 皿 伊万里(古九谷様式)』[江戸時代(17世紀中葉) 高:5.8cm 口径34.5cm 高台径20.2cm]です。口縁部を鐔縁(つばぶち)にした平皿です。大きな袋にもたれてどっしりと座る布袋(ほてい)文を描き、その周囲を八角形の圏線によって何層にも分け、それぞれに四方襷(よもだすき)文などの地文を施しています。立ち上がり部分には大ぶりな牡丹花を配した唐草文を描き、鐔部分には櫛歯(くしは)文をめぐらせています。裏面には表面と趣の異なる繊細な牡丹唐草文を配し、高台二重圏線内には角福の銘を記しています。
かっちりとした八角形の窓枠に描かれた直線的な文様に対して外側にはしなやかな曲線の唐草文が配されています。この唐草文は太く力強く、中心の繊細でやさしい表現の布袋文とも対照的に描かれています。このような対比的な構図が、この皿の魅力を一層引き立てているといえるでしょう。そして放射線状に広がる画面は、観る者の視線を中央へ引き込んでいき、古九谷様式ならではの迫力と躍動が感じられる作品です。保存状態も良好なため、たっぷりと施された上絵付け部分も艶を保っています。
布袋文は伊万里焼によく描かれる題材です。布袋様は日本では七福神の一人としておなじみの存在ですが、元来は中国・唐時代末期の明州(浙江省)に実在したとされる僧のことです。本来の名は釈契此(しゃくかいし)といい、図でもわかるように、容貌は福々しく、体躯は肥大で腹を露出した人物です。また常に袋を背負っていたことから布袋という俗称がつきました。ちなみにこの袋には、人々から受けた喜捨がたくさん入っているようです。また弥勒菩薩の化身として信仰されてもいます。
日本では、布袋は鎌倉時代頃に禅画の題材として需要されました。その風貌から日本でも人気の福の神となり、その後成立した七福神に組み入れられました。そして広い度量や円満な人格、富貴繁栄を司る福徳の神と考えられており、そのような性格は、この作品のようにやさしくにっこりと微笑む表情が如実に物語っているようです。
今展示では、このような古九谷様式のうつわと、瀟洒な柿右衛門様式のうつわを対比させる展示を試みています。是非お越しください。職員一同お待ちしております。