暑い日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。当館では現在、9月28日(日)まで、「古伊万里展—いろゑうるはし」を開催中です。
出展作品のなかから今回ご紹介するのは
『色絵 花鳥文 皿 伊万里』[江戸時代(17世紀末) 高:8.6cm 口径:48.7cm 高台径:23.7cm]です。白地に染付と赤い色絵で牡丹と菊を描いた風景と、渦巻き文を埋め尽くした緑地に鳥が飛び交う風景という、二つの全く異なるパターンが霞のように重なり合っています。見込みとその周囲で異なるパターンを描き分ける手法は一般的ですが、このような文様構成は珍しく、ぱっと目を惹くものではないでしょうか。

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さてこの作品には不思議な特徴があります。写真ではわかりづらいかもしれないですが、うつわの表面がデコボコしているのです。伊万里焼では通常、色絵は透明釉の上に施されるので、色絵の部分は盛り上がります。しかしこの作品は、緑の文様よりも、透明釉のかかった白地部分の方が盛り上がっているのです。これには素三彩(そさんさい)という技法が用いられています。素三彩とは、素地のまま本焼きされ焼き締まった白磁胎に、黄・緑・紫などの鉛釉を使って文様を表し、低温で焼き付ける技法をいいます。この作品は、まず素焼きした素地に染付で文様を描き、その上に部分的に透明釉をかけます。そして本焼きした後に、染付部分の赤い色絵と、釉薬が掛けられなかったためビスケットのように焼き上がった部分に直接緑や黄色の色絵で文様を描いて(つまり素三彩の技法)完成となります。
この素三彩という技法は、中国・万暦年間(1573-1620)に完成され、その後清時代の康煕(こうき)年間(1662-1722)にさらに技術が発展し、洗練されました。通常の色絵の艶やかさと比べると若干落ちついた質感を持っており、やわらかい風合いが特徴です。伊万里焼で素三彩の技法を用いるのは珍しいことですが、さらに染付と素三彩の併用するタイプは極めて稀な例であり、資料的にも高い価値のあるものと考えられます。
ちなみに、オランダのフローニンゲン(Groningen)博物館には、この作品とほぼ同じ大きさ・構図・文様のものがあります。ただし面白いことに、その作品では最後の工程である素三彩が施されておらず、素地が露わになっているのです。これは、[染付・施釉]→[本焼き]→[赤い色絵]の段階で有田からオランダに輸出されたことを物語っています。海外で仕上げを行うためであったのでしょうか、理由は定かではありませんが、伊万里焼の技術の高さと多様性を知ることのできる面白い作品です。
今展示はこの作品をはじめとした、ヨーロッパへ輸出された伊万里焼も数多く出展しております。皆様のご来館を心よりお待ちしております。