学芸の小部屋

2008年10月号

「青磁 唐子唐草文 輪花碗」

高麗時代(12世紀)

 すっかり秋めいて涼しくなってまいりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 今回は、朝鮮半島の高麗時代に作られた2点の碗をご紹介します。この2つの碗は、形も大きさも人物や唐草の文様もほぼ同じで、色だけが違います。ひとつは青緑色、ひとつは淡褐色とまったく違う技法で作られたように見えますが、どちらも「青磁」なのです。
 


 青磁は、釉薬や素地に含まれるわずか1~2%ほどの鉄分によって発色しています。青い青磁は窯の中に酸素が不足した状態で焼く「還元炎焼成(かんげんえんしょうせい)」によって作られます。還元炎焼成すると、やきものに含まれる酸化第2鉄から酸素が奪われ、青い色になります。
 逆に、窯の中に酸素が充分行きわたった状態で焼く「酸化炎焼成(さんかえんしょうせい)」では、鉄が酸化して黄色から褐色を呈するようになります。このような青磁を、日本では稲の籾(もみ)の色にみたてて「米色青磁(べいしょくせいじ)」と呼んでいます。まったく同じ釉薬を用いても、還元か酸化かによって違う色を呈します。

 また、この碗の表面には細かいヒビが無数に走っています(右写真参照)。これは貫入(かんにゅう)と呼ばれています。焼いている時の温度の上昇と、窯から出して冷却する時の膨張・収縮の率が素地と釉薬で違うためにできるもので、釉薬の表面だけに入ったヒビですので、素地までは割れていません。ものによってはキズとは見なされず、わざと貫入ができるように作ることもあります。「ひびき」とも呼んで、特に青磁の場合は昔からこれが見どころにもなっています。

「青磁 唐子唐草文 輪花碗」部分拡大図

 この碗には、3人の子供が飛び跳ねているような文様が型で押されています。このような文様は「人形手(にんぎょうで)」と呼ばれ、中国の龍泉窯で盛んに焼かれました。この碗は小さい高台からすっと立ち上がった形や鏡(うつわの内側底部の円い部分の名称)の文様などからみても明らかに高麗の青磁ですが、中国風の文様をとりいれたものです。




 この2点の碗は第1展示室にて並べて展示をしております。他にも様々な色合いの青磁と染付を出展しておりますので、色を比べてみてください。職員一同、お待ちしております。
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