学芸の小部屋

2008年11月号

「染付松原帆船文長皿」

(江戸時代 17世紀後半)

 夜の静けさに冬の足音が聞こえてきそうな今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。戸栗美術館では現在『青磁と染付展—青・蒼・碧—』を開催しております。

 今回はその中から、伊万里焼の染付作品をご紹介いたします。
「染付 松原帆船文 長皿(江戸時代 17世紀後半)」



 丁寧に描かれた雪輪と松原がうつわの上下を飾っています。中央は素地の白さが際立ち、その白い部分に目をこらすと二つの点に気付きます。それは二艘の帆船であり、船を発見することによって、白地部分は単なる「余白」ではなく「海原」に見えるのです。
雪輪は縁を細い線で描き、中をダミ染めと呼ばれる技法で淡く塗りつぶしています。松原は奥行きを感じる濃淡をつけて丁寧に描かれています。
 彩色に頼らない染付の表現には風景を描いたものが数多く見られ、いずれも抑制の効いた表現は食器としての機能性も備えていて、器形・意匠ともに愛着の涌くところです。

 染付には呉須と呼ばれる絵の具を使います。呉須は密着性の低い絵の具で、筆にとって紙に描けば、すぐに乾き、指で弾くと絵の具がパラパラと剥がれ落ちてしまうほどです。素焼きをした素地は吸水性に優れ、呉須を吸い込むので密着性の低い呉須絵の具の定着を良くします。一方で、素地に呉須を何度も重ねて描いてしまうと焼成時に呉須が焦げ、釉で覆われた表面の艶やかさを損ねてしまうという欠点があるので、染付は書き足すことなく一筆で描くのです。「染付 松原帆船文 長皿」をいま一度ご覧いただくと、伸びやかな描線に、素地と呉須を知り尽くした熟練の技が見えてくるのではないでしょうか。

 さて、このように素焼きをしてから染付を施す方法を「素焼き焼成」といいます。「素焼き」以前は「生掛け」とよばれる焼成方法で作られていました。初期伊万里の作品に見られる生掛け焼成は、成形し日陰で乾かした素地に染付を施すというものでした。水分と柔らかさの残る素地に染付を施し、高温で一度に焼き上げるので、素地は収縮して歪み、釉だまり(器の変形や施釉方法が原因とみられる釉薬の偏りのこと)なども多数出ました。また、先に述べた性質から呉須は素地に密着していないので、焼成時には状態によっては釉薬の液化と共に滲みます。

 伊万里焼は、万治2年(1659)にオランダ東インド会社からの大量注文をうけ、伊万里焼の輸出が本格的にはじまることによって転機を迎えます。その当時、購買元である西欧の裕福な人々が求めていたのは質の高い中国景徳鎮磁器でしたので、その求めに応じ、焼成方法以外にも成形技術や焼成技術、素地の精製や釉薬の精製・施釉の技術の向上などめざましい発展をとげ、やがて景徳鎮に引けを取らないやきものとして世界に名を馳せるようになります。

 この「染付 松原帆船文 長皿」の巧みな表現は、こうした発展によって生まれたのです。
 伊万里焼の染付作品は、今展示では第3展示室にてご覧いただけます。
初期伊万里、輸出伊万里の作品も併せてお楽しみ下さい。
『青磁と染付展—青・蒼・碧—』会期は平成19年12月24日(水)までとなります。
職員一同、みなさまのご来館を心よりお待ち申し上げます。
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