学芸の小部屋

2009年1月号

「色絵 龍鳳文 鉢 伊万里」

江戸時代(17世紀末~18世紀初)

  新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
戸栗美術館では1月6日(火)から3月29日(日)まで、「吉祥文様展—祝いのうつわ—」と題して、富貴や長寿などを表わすおめでたい文様が描かれた伊万里焼と鍋島焼を展示いたします。  

さて、今回は展示品の中から伊万里焼の鉢を2点、ご紹介します。17世紀前期に始まった伊万里焼は、17世紀半ばには赤、黄、緑などで彩色する色絵の技術が導入され、17世紀末から18世紀初期の元禄年間には色絵の上に金彩を施す華麗な金襴手(きんらんで)が作られるようになりました。下の写真は、その金襴手の鉢です。


「色絵 龍鳳文 鉢 伊万里」
高6.7㎝ 口径23.1㎝ 高台径12.8㎝

「色絵 龍鳳文 鉢 伊万里」
高6.8㎝ 口径23.0㎝ 高台径13.0㎝


 大きさも形もほぼ同じで、よく観察すると、中央の龍と鳳凰・その周囲の8つの区画・縁の部分に設けられた8つの窓を描く青い染付の図柄が、まったく同じなのです。伊万里焼は、成形→乾燥→素焼き(1度目の窯入れ)→染付の下絵付け→釉薬を掛ける→本焼き(2度目の窯入れ。この時点で染付磁器完成)→色絵付けをして焼付け(3度目の窯入れ)→金彩を施して焼付け(4度目の窯入れ)、の順に工程が進みます。江戸時代のやきものは現在の作家作品と違い、分業によって作られていました。成形といってもロクロを回してうつわの形を作る人、それを型に押し当てて形を整えたり文様を押したりする人がいます。染付の絵付けも輪郭線を描く人、塗りつぶす人、と細かく分かれて大勢で作業をしていました。大工場の流れ作業によってひとつの製品を作り上げていくわけです。そこで、同じ染付文様を描いたうつわをたくさん作り、その後で注文に応じてそれぞれに異なる色絵と金彩を施せば、種類の違う製品ができあがります。左側の鉢の場合、龍と鳳凰の周りには赤の細かい地文に唐花文(からはなもん=デザイン化された花の文様)を描いた窓と、緑地に唐花文・草文を描いた窓とを交互に配しています。右側の鉢は地文のない赤地と白地で、その中には左の鉢と同じ唐花文や草文が描かれています。こうして作られた、一定のパターンをもった金襴手の最高級品を「型物(かたもの)」と呼びます。
 同じ形と文様を使い、途中まで同じ製作工程を経ながら、異なる印象の製品を作る。4度も窯に入れなければならない手間のかかる金襴手を、質を落とさず、流行に応じてたくさん作らなければならなかった伊万里焼の職人が編み出した、合理的な技術です。

 なお、金襴手については学芸の小部屋2007年5月号の「色絵 荒磯文 鉢 伊万里」もご参照いただきますと一層、ご理解が深まるかと思います。

 今回ご紹介しました2点の鉢は、第1展示室に展示いたしますので、ぜひ実物を見比べてみてください。また、特別展示室では「吉祥文様の由来」をテーマに、文様が持つ意味やその背景にある伝説などをご紹介しています。
 職員一同、皆様のご来館をお待ちしております。

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