学芸の小部屋

2009年7月号

「波と小舟」

 蒸し暑い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。7月5日からの「古伊万里 小皿・向付展—愛しき掌の世界—」では、夏向きの涼しげな変形皿も出展されます。今回ご紹介するのは、波が描かれた舟の形の皿です。


青磁染付 波文 舟形皿
伊万里 江戸時代(17世紀後半)
高:6.6㎝、口径:17.2×8.2㎝、高台径:7.2×6.3㎝

 釉薬に含まれる微量の鉄分によって青緑色を呈する青磁と、コバルト顔料の呉須(ごす)によって青い文様をあらわす染付。どちらも発祥は中国ですが、この2種類の技法を併用した〈青磁染付〉は日本以外ではあまり見られません。青磁染付には、染付の部分には透明釉を掛け、その他の部分には青磁釉を掛ける釉薬掛け分けタイプと、染付の上にも青磁釉を掛けるタイプとがあります。前者は白地に染付がくっきりと浮かび、後者は染付の青色に青磁の青緑色が重なって、落ち着いた黒っぽい色の文様になります。

 写真の「青磁染付 波文 舟形皿」は青磁釉と透明釉の掛け分けタイプなので、内面に描かれた波の文様は明るい青色を呈しています。鍋島焼と見紛うほど色の良い青磁なのですが、波の形が不規則です。ここには2客しか写真を出していませんが、5客揃いですべて波の様子が違っているのです。また、貫入(釉薬のヒビ)が入っているものもあります。きっちりと規格化された鍋島焼ではあり得ないことなので、これは民間流通の伊万里焼と判断できるわけです。

  人それぞれの感じ方次第ですが、波の文様が不規則であることによって、見ていて飽きが来ないものになっていると思うのです。1つの皿だけで見ても波に動きがありますし、5客それぞれに穏やかな海であったり、荒海であったり。鍋島焼の魅力が規則正しい正確さにあるなら、伊万里焼の魅力はこの不規則さ、良く言えば大らかな自由さにあるのではないでしょうか。

 焼物を変形させる技法は種々ありますが、皿の場合は〈型打ち成形〉と〈糸切り成形〉が主に使われています。型打ちは粘土をロクロで円く成形してから型にかぶせて叩いて変形させたり陽刻文様をつけたりする技法、糸切りはロクロを使わずに、板状の粘土を型に押し当てて変形させ、はみ出した余分な粘土を糸で切り取る技法です。どちらの技法で作られたのかは、高台の形で見分けます。型打ち成形ではロクロで回転させながら削り出す円形の高台、糸切り成形ではうつわの形に合わせた貼り付けの高台になります。この皿の高台は円形なので一見、型打ち成形かと思いますが、よく見ると正円ではなく少し歪んで楕円になっています。糸切りで成形しておいて、別に円く作った高台を貼り付けたものでしょう(下の写真参照)。


青磁染付 波文 舟形皿
伊万里 江戸時代(17世紀後半)
高:6.6㎝、口径:17.2×8.2㎝、高台径:7.2×6.3㎝

 今展示では、2階の特別展示室にて陶片を使って伊万里焼の成形技術の種類と見分け方をいくつかご紹介していますので、様々な変形皿がどのように作られたのか興味を持たれた方は、あわせてご覧ください。
(松田)
Copyright(c) Toguri Museum. All rights reserved.
※画像の無断転送、転写を禁止致します。
公益財団法人 戸栗美術館