学芸の小部屋

2009年8月号

「涼のうつわ」

 夏本番、暑い日が続いております。開催中の「古伊万里 小皿・向付展—愛しき掌の世界—」では、暑い時期の展示ということで涼しげな染付が多くなっていますが、第3展示室には小さいながら、爽やかな白磁のコーナーも設けてあります。


白磁 菊文 猪口
伊万里 17世紀後半
高:5.8㎝ 口径:7.5㎝ 高台径:4.7㎝

文様部分の拡大


 今回ご紹介するのは、「白磁 菊文 猪口(ちょく)」。うっすらと菊の文様が見えるでしょうか。陽刻に見えますが、実は陽刻ではありません。文様の形に抜いた型紙の上から白泥を塗る、型紙絵付けの一種です。青磁に使われることがしばしばありますが、この作品は真っ白い白磁に白泥の装飾。遠目には無文に見えて、近づいてみると菊の花が描かれている、上品でお洒落な猪口です。

 型紙絵付け、型紙摺りといわれる技法は伊万里焼では17世紀後半~18世紀初期を中心に使われました。細かい文様を抜いた型紙を製品に置いて呉須を塗る染付の作品が主で、その場合は文様の輪郭が点線であらわされるのが特徴です。当時流行した染織の技法を採り入れたもので、まるで江戸小紋のような、細かい文様が施されます。この白磁の猪口の型紙絵付けは小紋柄とは違いますが、染織でも無地に見えて地紋入り、というのがありますから、そういったところから着想を得たのかもしれません。

 そして、写真ではお伝えしにくいのですが、この猪口は光が透けてしまうほどに薄造りなのです。光を透かす〈透光性〉は磁器の特徴で、原料の陶石にガラス質を含んでいることによります。ガラス質を含まない陶器では光は透けません。同じコーナーに展示している「白磁 花形向付」も光が透けて見えますので、ご来館の際は観察してみてください。

 さて、今展示では楽しく展示をご覧いただけるように「人気投票」という企画を行なっています。実は「白磁 菊文 猪口」は、8月1日現在、第3展示室の首位に立っている作品です。投票用紙には〈ひとこと〉欄があるのでコメントを寄せてくださる方も多く、「今の季節に合ってる。洋菓子を入れても良いと思った」「上品な所が良い」「凛とした感じが好き」「使ってみたい」等々、涼しげで上品で使い勝手が良さそうなところに人気が集まっているようです。人気投票の途中経過は当館のブログで随時発表していきますので、是非そちらもご覧ください。
(松田)
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