学芸の小部屋

2009年12月号

  「聖なる夜に。」


青花 唐草文 稜花盤  景徳鎮窯
元時代(14世紀)
口径:46.3cm


 12月に入り、渋谷の街も例に漏れずクリスマス・ムードが高まってまいりました。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

 あちこちに飾られている大きなツリーをみていると、現在「鍋島と景徳鎮展」の第2展示室の入り口に出展している「青花 唐草文 稜花盤」をオーナメントとして飾って見たいような気持ちになるのは私だけでしょうか。地の濃い藍色が冬の夜空を連想させ、同心円状に6つ、8つに整然と並べられた白抜きの花が、見方を変えれば放射線状に広がる雪の結晶のようにも星の輝きのようにも見えるような気がして、とても似合うと思うのです。

 もちろん作品保護の面からみて、そのような危険な“展示”は実現不可能ですし、口径が46.3cmもあるわけですから(元青花として典型的なサイズですが)、ミニチュアのレプリカを飾るのがよいかと思われます。

 このように、元青花の盤に雪の結晶や星の輝きを連想することはただのこじつけではありません。

 元時代の青花磁器は、おもに貿易陶磁としてイスラーム圏へと運ばれました。そのため、その文様や形には、イスラーム圏の生活スタイルや趣味嗜好が反映されています。例えば、お皿の大きさ。彼地では、大きなお皿をみんなで囲んで、直接スプーンですくって食べるという食事スタイルであったことから、それまでの中国の文化にはなかった大型の器が作られるようになりました。また、文様についても、ペルシャ絨毯のような異国情緒あふれる雰囲気を湛えています。実際に器面を埋める一つ一つのモチーフは、牡丹や蓮華をはじめとして、八宝文(はっぽうもん)、如意頭文(にょいとうもん)、波頭文(はとうもん)など、中国伝統の文様ばかりなのですが、余白を残さず濃密に描きこんだ文様、同心円状・放射線状に整然と文様を配する幾何学的な構図をとりいれることによって、イスラーム圏の人々の嗜好に適するように文様が考案されています。
 
 イスラーム文化において、放射線状に文様が広がっていくデザインというのは、無限に広がっていく宇宙的スケールを象徴しているといい、また逆から捉えれば中心の一点に向かって文様が帰結する、すなわち、唯一神への帰服という理念の図案化であるともされ、イスラームの思想を直に反映した文様であるといえます。 

 このように、元青花の盤は、キリスト教ともクリスマスともまったく関連がないわけですが、雪の結晶や星の輝きを連想することは、放射線状に広がる文様構成ゆえに見当はずれなことではないことが分かってきました。この作品を、ツリーのオーナメントとするかどうかは別としても、この季節に鑑賞することで、作品の魅力が増して感じるのではないでしょうか。

 この作品が見られる「鍋島と景徳鎮展」は、クリスマス・イブのイブ、12月23日(水祝)まで。中国陶磁で一風変わったクリスマス気分を味わってみるのはいかがでしょうか。 


 なお、12月24日(木)〜2010年1月4日(月)までは展示替えのため休館、新年1月5日(火)からは「町人文化と伊万里焼展—器からみる江戸の食—」がはじまります。こちらもどうぞお楽しみに! 

(杉谷)
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