学芸の小部屋

2012年7月号

「祥瑞風のうつわ」

左:「染付 輪繋文 皿」 江戸時代(17世紀中期) 高5.0㎝ 口径22.6㎝
右:「染付 瀧山水文 皿」 江戸時代(17世紀中期) 高3.6㎝ 口径21.7㎝

 今年の梅雨明けはもう少し先になりそうですが、みなさまはいかがお過ごしでしょうか?

 現在開催中の「初期伊万里展 ‐日本磁器のはじまり‐」第2展示室では、(1)初期伊万里の茶道具(2)祥瑞写し(3)窯跡紹介の三部構成で伊万里焼作品を展示しています。

 そのうち(2)のコーナーで取り上げている「祥瑞写し」は、中国の明時代末(1620年代~40年代)に景徳鎮民窯で作られた“祥瑞”と呼ばれるタイプの茶陶の影響を受けています。丸文などで器面をいくつかに区画し、四方襷文や七宝文など幾何学的な意匠が取り入れているそれらの作品は、1640年代頃から作られ始め、茶懐石などでも盛んに用いられるようになりました。初期伊万里の中でも次の時代の様相を持つ祥瑞写しは、中国の古染付や絵手本などを取り入れたおおらかな作風の典型的な作品に比べて、文様描写や成形が丁寧で、ゆがみや傷、ふりものが少ないのが特徴です。

 今回はこのコーナーの中から、「染付 輪繋文 皿」と「染付 瀧山水文 皿」の2点の作品をご紹介いたします。どちらも、櫛目文をめぐらせた縁を内側に折り返して輪花形に変形し、縁銹を施しています。さらに、表現や筆跡はやや異なるものの、内側面に不揃いな櫛目文を配し、裏面には花唐草文、高台内には「大明成化年製」の銘を記している点でも近似しています。このように、形状や文様構成に共通点が多いことから、これらは同じ窯場で作られたものだと考えられます。


 しかし、「染付 輪繋文 皿」と「染付 瀧山水文 皿」はそれぞれ描かれている主文様が異なり、焼き上がりの染付の発色にも差があることから、全く印象の違う作品に仕上がっています。また、「染付 瀧山水文 皿」は手取りも重く厚みがある為、焼成時に歪み「染付 輪繋文 皿」に比べて背が低くなっているという違いがあります。

 これは、分業体制によって作られていた磁器産業の特質で、それぞれの工程を担当した陶工の違いであることが要因のひとつに考えられます。絵付けや成形の職人にも当然技術の差があったであろうし、同じ陶工が手掛けたとしても何枚も同じ製品を作り上げていく中で次第に完成度が高まっていったのかもしれません。また、窯内でのうつわの設置場所によって火の当たり具合や酸素濃度が異なり、焼き上がりが変化した可能性も考えられます。磁器は、焼成温度や酸素量によって素地の収縮率や色、染付の青の発色に影響するのです。このようにそれぞれの共通点、相違点にも注目しながら、これらの作品の製作に携った陶工たちに想いをはせて、ご覧頂ければと思います。

(金子)

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