学芸の小部屋

2012年12月号

「紫と背景の表現」

「色絵蓮鳥文皿」 
伊万里(古九谷様式) 
江戸時代(17世紀中期)
高7.6㎝ 口径33.7㎝ 高台径14.6㎝

あっという間に2012年も最後の月となりました。
師も走るほどに忙しい年末と言いますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

今回の学芸の小部屋では、現在開催中の「古九谷名品展—躍動する色絵磁器—」出展品の中から、「色絵 蓮鳥文 皿」を取り上げ、その特徴的な表現についてご紹介致します。

 画面狭しと生い茂る蓮、その中に身を隠す2羽の鳥。力強い筆致はリズムを生み、生命の躍動感を感じさせます。本作は、古九谷様式の青手と呼ばれるタイプで、全体を濃い色調で塗り埋めています。青手に用いられる色は、緑・黄・青・紫・黒の5色ですが、本作で注目していただきたいのは、薄紫を使った表現です。薄紫は、古九谷様式青手の中でも珍しい色彩で、ここでは上部に配された雲に用いられています。一見白に見える程淡い紫を用いる事により、ふわふわと宙を漂う雲の軽やかさを表現しているのでしょう。また、間近に迫る蓮の茎や鳥には濃紫、頭上に漂う雲には薄紫、といった紫の濃淡の使い分けにより、近景と遠景の対比効果を狙ったとも考えられ、主題である蓮と鳥をより引き立たせる役割を果たしているようにも感じます。

 続いてご注目いただきたいのは、全面に点が施されている背景の表現。(下画像左端)この点の表現は、「吹墨」という技法を用いたと考えられます。吹墨は、主に初期伊万里などの染付で呉須を用いて施される技法ですが、ここでは黒の顔料を吹き付けています。広範囲に比較的均一に点を散らす事ができ、また、点を表わしたくない薄紫の雲の部分には覆いをあてるなどして、必要な部分に効率よく無数の点を施しています。
基本的に、青手では主題となるモチーフを大胆な構図で描き、その周囲に生まれる余白に丸や渦、雪輪や波紋といった細かな地文様をびっしりと描き込んでいます。(下画像右4つ:「古九谷名品展—躍動する色絵磁器—」出展品の地文様部分)



 しかし本作では、地文様の代わりに背景として無数の点が散らされています。具体的な文様ではなく点を用いた理由を、主題となるモチーフの描き方から推測してみましょう。ここで主題となる蓮は、その茎が複雑に入り組んだ形で描かれているために、余白が細かく分割され、わずかな隙間しか残されていません。この隙間に具体的な文様を描き込むと、主題となる蓮や鳥が地文様に埋もれてしまう事にもなりかねませんし、その作業は非常に手間と時間を要する事でしょう。そこで、必要な部分に効率よく、細やかでわずかな隙間にも無数に描く事が出来る、点の表現が用いられたと考えられます。

 古九谷様式のうつわには、生き生きとした躍動感があり、一つ一つの作品に個性があります。今回ご紹介したような、色や背景の表現などに注目すると、うつわの個性・魅力をより感じ取っていただけるのではないでしょうか。是非、それぞれのうつわを細部までご鑑賞くださいませ。
「古九谷名品展—躍動する色絵磁器—」は、12月24日(月祝)が最終日となります。慌ただしい季節ですが、芸術鑑賞でほっと一息いれてみてはいかがでしょうか。みなさまのご来館をお待ちしております。



(竹田)

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