学芸の小部屋

2013年2月号

「類似する文様構成」


色絵椿文皿
江戸時代(17世紀末~18世紀初)
高5.9cm 口径20.3cm

染付石榴文皿
江戸時代(17世紀末~18世紀初)
高4.5㎝ 口径14.8㎝ 高台径8.3㎝


 長い冬もいよいよ終わりに近づいて参りましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 只今開催中の「鍋島焼展—孤高の鍋島藩窯—」では、鍋島焼の表現と技術の粋を、洗練された文様構成にも焦点を当ててご紹介しております。今回の学芸の小部屋では、第2展示室より「色絵 石榴竹垣文 皿」と「染付 石榴文 皿」の2点を取り上げます。

 これらの作品群はいずれも、葉を付けた折枝石榴文が木盃型の丸い器形にあわせて、口縁に沿うように配置されています。それぞれうつわのサイズは異なりますが、石榴はほぼ同じ大きさで表わされています。実の描き方に注目すると、配置や形、大きさだけでなく、中の種が省略されているところや、質感を表す点描、虫食いのような丸い穴の跡までが共通しています。

 鍋島焼には、このように類似する文様が繰り返し描かれることが少なくありません。その場合であっても、皿のサイズや技法、さらには制作年代が異なる作例があることから、デザイン帳などの見本をもとに描いたか、あるいは作品そのものを手本として描いた可能性が考えられます。


鍋島図案帳
 実際に、佐賀藩主鍋島家には図案帳と呼ばれるデザインブックが伝来しています。その中には、右図のように3つの実と複数の葉を付けた折枝石榴文が描かれた図案も残されています。全体の文様構成は異なりますが、種を描かない石榴の表現や、重なった2つの実の形状が、「色絵 石榴竹垣文 皿」や「染付 石榴文 皿」と近似しています。









 さて、「色絵 石榴竹垣文 皿」と「染付 石榴文 皿」の2点を比較して見てみると、共通点は多々あるものの、それぞれに異なる印象を与えます。

 「色絵 石榴竹垣文 皿」では、鐔縁とした口縁に青磁釉を施し、背景に竹垣を描くことで画面を引き締め、安定感のある構図を作り出しています。石榴の実は薄く赤を施したのち、掻き落としによる白抜きの点描装飾で、ざらざらとした質感を強調しています。
文様の輪郭線は、葉や枝、竹垣を染付の青で描き、石榴には上絵の赤を使用しています。しかし、よく見ると赤い輪郭線の下にはうっすらと染付の青で下描きが残されていることがわかります。鍋島焼では花などを赤で描く際に、染付で輪郭線を施したのちに赤で線描きし、中をきっちりと塗ることが多く、太さが均一の正確な筆致や丁寧な賦彩が格調高さを感じさせます。

 「染付 石榴文 皿」では、うつわのサイズに合わせた構成の違いがあり、一部の葉は省略されたり(矢印①)、色絵にはない枝が描き込まれています(矢印②)。
鍋島焼は染付の技術が高く、青のグラデーションに幅があり、石榴は色絵に比べてより立体感のある表現となっています。また、石榴と重なる枝の部分を比較すると、しっかりと輪郭線で区切っている色絵に対し、ぼかすように淡い調子で描かれ、やわらかな雰囲気を作り上げています(矢印③)。
さらに葉の表現では、濃い染付の青と上絵の緑、黄を用いている色絵とは異なり、濃い青と薄い青の2色に塗り分けている染付では、全体的なバランスに応じて葉の濃淡の配置を決定しています。

 類似する文様構成でありながらも、うつわのサイズや技法にあわせて様々な工夫が凝らされ、異なる魅力を持った鍋島焼の色絵と染付。丸いうつわの中に如何に文様を美しく配するかを探究し生み出された、それぞれの表現の違いをお楽しみ頂ければと思います。




(金子)

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