学芸の小部屋

2013年8月号

「変形皿の用途」

「色絵花鳥文木瓜形皿」
伊万里(柿右衛門様式)
江戸時代(17世紀後半)
口径15.5×13.3㎝

 8月に入り暑さもますます厳しく、しのぎづらい毎日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?

 今回は、展示品の中から「色絵 花鳥文 木瓜形皿」をご紹介いたします。楕円形の四隅に切り込みを入れた木瓜形(もっこうがた)と呼ばれる器形の皿。見込みには染付の青で岩や枝の主要部分を描き、赤や黄、緑の上絵具で花や鳥を表しています。また、裏側面には枝の上にちょこんと佇む愛らしい小鳥の姿を染付で描いています。華やかで優雅な雰囲気を持った小皿ですが、いったいどのような場面で使われたのでしょうか。

 まず、作品をじっくりと観察すると、その制作方法を識別することができます。見分けのポイントは裏面高台の形。「色絵 花鳥文 木瓜形皿」では、器形にあわせた形の木瓜形になっています。このことから、本作が “糸切成形”(※)の技法で作られたことがわかります。
この技法が流行したのは17世紀中期から17世紀後半にかけてのこと。ロクロでは作ることのできなかった自由な形の変形小皿が数多く生み出されました。こうしたうつわの多くは、国内で茶懐石の向付として使用されましたが、本作は海外への輸出用として作られたものと考えられます。


 というのも、作品が収められた箱にその特色が表れています。国内に伝わっている伊万里焼は木製の箱で保管されていることが多いのに対し、本作はヨーロッパで仕立てられたと思われる布貼りの箱に収められています。外面は布貼りに、化粧箱の中にはギャザーの入った毛足の長い布がうつわの器形に合わせて敷かれています。この箱がいつの年代に作られたかは明らかではありませんが、布貼りの箱が湿度の高い日本で作られたとは考えにくく、販売用か保管用、もしくは日本に里帰りする際などに本作専用の箱として仕立てられたものと考えられます。

 また、国内用には動物や植物、富士山のように口縁を大きく変形させた皿が多いのに対し、海外向けには木瓜形や輪花形などの円形に近い比較的シンプルな形が多いことも特徴のひとつ。茶の湯の中で発展した変形皿は、左右非対称を好む日本人特有の感覚から生まれたもので、西欧にはない文化だったのでしょう。

 国内だけでなく、海を越えヨーロッパの人々にも愛された伊万里焼は、需要に応じてさまざまな表現を生み出しました。今展示「小さな伊万里焼展—小皿・猪口・向付—」では、国内用・輸出用の変形皿のほか、小さくかわいらしい猪口や向付、茶道具などをご紹介しております。みなさまのご来館をお待ちしております。

※糸切成形…ロクロを用いずに板状にした粘土を、土型に被せて余分な部分を糸で切り取り変形させる成形方法。ロクロ成形の場合、裏面高台はロクロを回しながら道具で削り出すため円形になっているのに対し、糸切成形では成形後に後から貼りつけるため、うつわの形状に合わせた形になっています。

(金子)

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