学芸の小部屋

2013年10月号

「明時代の龍泉窯青磁」

「青磁花卉文稜花盤」龍泉窯
明時代(15世紀)
口径49.8cm 高6.8cm 高台径27.7cm

 すっかり涼しく、朝晩は肌寒くなってまいりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。戸栗美術館では10月5日より「館蔵 青磁名品展—翠・碧・青—」を開催いたします。当館コレクションの核となっている伊万里焼・鍋島焼を中心に、中国・朝鮮半島の青磁も合わせ、約80点の青磁を出展いたします。戸栗美術館で中国の青磁を展示するのは5年ぶりのこととなります。そこで、今回の学芸の小部屋では、中国の青磁をご紹介いたします。

 明代初期(15世紀)に焼かれた龍泉窯青磁の大盤。片切彫りにより、見込には花文、内側面には宝相華唐草文、口縁に線条文が陽刻されています。花の中心をメロンパン状に表現するのは15世紀の龍泉窯青磁の牡丹文に時折見られる表現で、この花も牡丹花と見られます。広く深く彫った輪郭と、細かく彫り込んだ葉脈の強弱のバランスが絶妙です。こうした彫りの強弱によって釉薬の濃淡が生まれ、文様に奥行きを与えています。


 また、本作の裏面は高台内のみドーナツ状に釉薬が剥ぎとられています。鉄分の作用により赤く変色した露胎部分には、窯道具を当てた痕跡が白く残り、また一部には熔け流れた青磁釉によって焼き付いてしまった窯道具を削りとった痕跡も見てとれます。この窯道具は、中国では■托(■は〔執+土〕、てんたく)、日本ではチャツなどと呼ばれる皿状の焼台で、製品の足を浮かせた状態で焼くための道具です。これを用いることにより、高台畳付(たたみつき、うつわの底の床面と接地する部分)にまで釉薬を施すことが可能となり、うつわを使用する時にテーブルなどを傷つけないよう工夫されているのです。


 龍泉窯青磁では、この焼成方法は、元代中期頃から明代中期にかけての宮廷用品や下賜品・輸出品(高級品)にみられる技法であることが研究によって指摘されています(※)。実際に、歴代中国王朝で使用・保管された文物が伝わる故宮博物院(北京・台北)や、鄭和の大遠征などにより中国朝廷から中近東地域にもたらされた贈答品や下賜品が伝わるトプカプ宮殿(イスタンブール)にこの焼成方法を用いた龍泉窯青磁が多く残されています。また、2006年に発掘調査が行われ、明代初期の宮廷用の青磁製品が作られた窯場であることが明らかになった龍泉大窯地区の楓洞岩(ふうどうがん)窯址でも、この焼成方法で焼かれた盤や鉢が大量に発見されており、故宮博物院やトプカプ宮殿に蔵されている青磁の多くはこの窯で焼かれたものと考えられています。

口径50cmに近い堂々とした大きさに、丁寧な彫り文様が施されたこの盤も、もしかすると楓洞岩窯で作られ、中国の宮廷やスルタンの宮殿で用いられたものだったのかもしれません。

ちなみに、この焼成方法は、伊万里焼にも用いられています。龍泉窯青磁と異なり、伊万里焼では釉はぎ部分が白いため、わざわざ鉄泥を塗って褐色にし、龍泉窯青磁に似せています。(下の例では、チャツが当たる高台内の外周部分にのみを鉄泥を塗っており、中央の青磁釉が塗られた部分との間に、白い無釉の素地の帯が残されています。)


今展示では、中国・朝鮮半島・日本それぞれの青磁を一堂にご覧いただけますので、ぜひ見比べてみてください。

※ 蔡和璧「文献資料をとおして観る龍泉窯」『和泉市久保惣記念美術館紀要 10』1998

(木野)

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