学芸の小部屋

2013年11月号

「獅子の表現 ‐鍋島焼と平戸焼」


左:青磁 獅子置物 鍋島 江戸時代(18世紀)
右:青磁瑠璃銹釉 獅子置物 平戸 江戸時代(19世紀前半)

鮮やかな紅葉の季節を迎え、お出かけが楽しくなりそうな今日この頃。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
戸栗美術館では現在、さまざまな青や緑に彩られた「館蔵 青磁名品展 —翠・碧・青—」を開催しております。

今回は、展示品の中から鍋島焼の「青磁 獅子置物」と平戸焼の「青磁瑠璃銹釉 獅子置物」の、産地の異なる2作品をご紹介いたします。

 邪気を払う魔除けの聖獣として吉祥の意味を持つ獅子は、やきものや工芸品の文様として江戸時代を通して人気の高かったモチーフのひとつ。鍋島焼や平戸焼では、獅子をかたどった青磁の置物や香炉など複雑な形の立体作品が作られています。色絵や染付に比べ、様式変遷が明確ではない青磁は、時代や産地の判別が容易ではありませんが、本作2点を比較すると、それぞれ施釉方法や装飾方法の違いから、産地を見分けることができます。

 鍋島焼の「青磁 獅子置物」には、全面に釉薬がたっぷりと掛けられており、落ち着いた深みのある青緑色を呈しています。じっくりと観察すると、獅子の毛並みなどには細かな細工が施されていますが、厚い釉薬に覆われたことで、全体的に少し丸みを帯びたやわらかい表情に仕上がっています。
また、凹部分にたまった濃い青緑色と、凸部分の地の白が透けて見える部分とのコントラストが美しく、とろりとした艶やかな質感からは、鍋島焼の優美さと格調高さが感じられます。獅子をはじめとする鍋島青磁の置物や香炉では、本作のように青磁釉のみで仕上げた作品が多く、銹釉や瑠璃釉などの異なる釉薬を掛け分ける装飾方法はほとんど見られません。


 一方で、3頭の獅子が楽しそうに戯れている様子を象った平戸焼の「青磁瑠璃銹釉 獅子置物」には、青磁釉・瑠璃釉・銹釉がそれぞれに掛け分けられています。中でも、青磁部分に着目して鍋島焼と比較すると、平戸焼は釉薬の層に厚みがなく、釉薬の下にある毛並みや爪などの細かな装飾が際立っており、獅子達の躍動感のある生き生きとした表情がうかがえます。また、青磁の釉調は鍋島焼に比べて全体的に薄く淡い水色を呈しているのが特徴です。
 さらに、獅子の眼や牙の部分は釉薬を掛けずに焼き締めの状態になっている点や、胴体部に渦を巻くような毛並みの彫文様が鮮明に表わされている点も、特に平戸焼に多く見られる表現です。鍋島焼とは異なり、柔らかく加工のしやすい天草陶石を原料とした平戸焼では、獅子以外にも繊細な彫りや捻りを加えた細工物が数多く生みだされています。釉調の美しさを追究した鍋島青磁に対し、平戸焼では造形物の細かな細工に重点を置いたと言えるでしょう。

 国や地域、時代、制作方法などによってさまざまな表情持つ、色や装飾が見どころのひとつとなっている青磁。今展示では伊万里焼、鍋島焼を中心に中国、朝鮮の青磁もあわせて展示しております。各産地による表現の違いにもご注目いただき、それぞれに異なる魅力を持った青磁の名品を、ぜひ間近でご鑑賞頂ければと思います。


(金子)

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