学芸の小部屋

2015年2月号

「型物」

色絵琴高仙人文鉢
伊万里
江戸時代(17世紀末~18世紀初)
高8.8㎝ 口径23.0㎝ 高台径11.8㎝

 寒さが身に堪える日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
戸栗美術館では現在、「江戸の暮らしと伊万里焼展」を開催中(3月22日(日)まで)。第1展示室では、元禄年間(1688-1704)に完成した古伊万里金襴手様式のうつわを中心にご紹介しています。

 今回の学芸の小部屋ではその中から「色絵 琴高仙人文 鉢」を取り上げます。見込に描かれているのは、波間跳ねる鯉に乗った琴高仙人の図。これは琴高仙人が龍子を捕えると言って川に潜り、その後大きな鯉にまたがって現れたという伝説と、滝を登りきった鯉は龍になるという伝説を踏まえて描かれた意匠と考えられます。見込文様を染付の青1色であらわすことで、色絵と金彩による華やかな装飾の中で主題を印象的に見せています。周囲には古伊万里金襴手様式に多く見られる赤玉瓔珞文、縁には四方襷文と花文。ムラの無い赤濃や細密な筆致に絵付師の高い技術をうかがわせます。



 古伊万里金襴手様式は、中国明代嘉靖年間(1522-1566)に景徳鎮窯でつくられた作品群に祖形が求められます。金襴手と呼ばれたその絢爛豪華な磁器が、元禄年間の華美な装飾を好む人々に求められ、伊万里焼の新たな様式として取り入れられました。中国・金襴手の特徴として、吉祥文や花唐草文を多用する意匠、器面を区画する構図、細かな地文様を描き込む描法などがあげられますが、「色絵 琴高仙人文 鉢」の外側面(右図)にもその影響があらわれています。

 本作は、古伊万里金襴手様式の中でも「型物」と称されます。やきものの世界で型物という言葉には、型を用いて成形されたものという意味と、名品の基準となる型にはまる(基準を満たした)ものという意味がありますが、ここでは後者をあらわします。江戸時代の文献に「型物」という言葉は確認できず、おそらく明治以降、鑑賞陶器の流行の中で生まれた呼称と考えられます。現代では主に古美術商の間で用いられる用語で、その定義は明確に定められてはいません。

 ちなみに、世に言う型物の代表といえば、水平に折り返した鐔縁を持つ「兜鉢」(1)や玩具の独楽の形に似た「独楽鉢」(4)に、「赤玉雲龍」(1)、「荒磯」(2)、「琴高仙人」(本作)、「五艘船」(3)などの意匠を描いたもの。今展には優品の鉢が数多く出展されていますが、やはりこれらの作品には別格の存在感があります。実際に古美術商の方にお話をうかがってみると、上記に弓破魔皿(5)を加える場合もあり、壽字宝尽くし文の独楽鉢を型物に次ぐ「準型」と呼ぶこともあるそう。また広義には、器形や文様を限定せず、優品は全て型物とされる場合もあり、捉え方は様々です。



型物に代表される古伊万里金襴手様式のうつわは、江戸時代、裕福な商人・町人の間で慶事の際の贈答品や宴席で饗応のうつわとして使われました。300年以上経っても、金彩の煌々とした輝きや細やかに描きこまれた文様は失われることなく私たちの目を楽しませてくれます。是非、上記にあげた作品にも注目してご鑑賞くださいませ。「江戸の暮らしと伊万里焼展」は3月22日(日)まで開催しております。
(竹田)



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