色絵 壽字宝尽文 八角皿  鍋島
江戸時代(17世紀末~18世紀初) 口径20.8×19.4cm
戸栗美術館所蔵

 実践女子大学の猪股と申します。戸栗美術館で博物館実習をさせていただきました。私は福岡県出身で九州にゆかりがあり、大学で陶磁器の美術史に関心があったことから、戸栗美術館で実習する機会をいただき、大変光栄に思っています。

 今回、私が紹介させていただくのは、『戸栗美術館名品展Ⅰ―伊万里・鍋島―』の第一展示室に入って左側の単体ケースに展示されている「色絵 壽字宝尽文 八角皿」です。鍋島焼で、江戸時代の17世紀末から18世紀初頭に作られました。口径20.8×19.4cmの八角皿です。見込に壽(ことぶき)の文字を白抜きであらわし、その周りを宝珠、さらにその外周を宝尽しで囲むといったように、おめでたい文様がたくさん詰め込まれたうつわです。濃淡を駆使した染付の青、上絵付けの緑、赤、黄色の明るい色遣いも華やかです。私はこの作品を鑑賞する際に、幸せや喜びを感じます。
 私がこの作品でおすすめしたいポイントは描かれた文様です。みなさんは、この作品を見たとき、どの文様が気になりますか?
 宝珠や外周の様々な宝は宝尽しと総称します。時代や地方によってモチーフの内容が異なりますが、縁起の良いモチーフが集められて、吉祥文様となっています。江戸時代には少しずつ人々の生活に余裕ができてきたので、服飾に関心が向くようになります。そこでまず、誰しも、少しでも幸せを、と縁起の良い文様に興味がいきます。誰にでもわかりやすく、しかもご利益がありそうな宝尽しの文様が江戸時代の人々に好まれました。磁器のみならず、織物や刺繍の晴れ着から、藍染めの手ぬぐいまで、宝尽し文が使われたといいます(註)。どのお宝でも、ひとつ授かればこんなありがたいことはなかろうと思いますが、宝尽し文はすべてのお宝をひとまとめにした欲張りの文様になっています。

 今回はこのうつわに描かれた宝文のうち、私がぜひみなさんに注目してほしい宝たちを紹介していきます。


 宝珠は、如意宝珠ともいい、望むものを意のままに出す、願い事が叶う宝の珠です。子どもの着物の柄にも使われており、健やかな子どもに育ってほしいという、親の願いが込められています。


 丁字は、希少価値の高い香料で薬にも用いられたスパイスの一種です。正倉院御物の薬物としても、献納されています。


 打ち出の小槌は、大黒天などの持ち物で、打ち振ると財宝など望むものが出てきます。


 隠れ笠や隠れ蓑は、被れば姿を消して身を守ることができます。


 宝巻・巻軸は、貴重な経典や秘伝、神仏のありがたい奥義を書いた巻物です。


 金嚢・巾着は、錦など高級な布で飾られた、貴重品やお金を入れる財布としてだけでなく、お守りや香料などを入れる袋でもあり、金銀財宝が詰まっています。
続いて、楽器の文様に注目して見てみましょう。江戸時代になると、楽器の使われ方も多様になり、宗教儀式で使うほかに、年中行事や娯楽の場での音楽を演奏する道具になりました。文様で楽器を使う場合、音そのものの表現ができないので、楽器の形の美しさを借りて雅な音のイメージを表現したと考えられています。


 笙(しょう)は、雅楽の管楽器の一つで、中国楽器の最古のものの一つともされます。


 拍板(はくはん/びんざさら)は木製打楽器の一つです。短冊状の竹をひもでつるし、両端の板を両手に持って打ち合わせて音を発します。田楽の主要楽器ですが、他の郷土芸能にも用いられます。


 鐃鈸(にょうはち)は、仏教で法会に用いる響銅(さはり/銅を主とした錫や鉛を加えた合金)製の楽器で、二枚を打ち合わせて音を発します。シンバルの一種でもあり、たたくとよい音がするので仏家では打鳴らしとして用いられました。


 法螺貝は、ホラガイに穴をあけ口金をつけて、吹き鳴らすもので、日本で戦陣の合図等に用いられました。仏教における宝の一つで、よい音が鳴るため縁起が良いとされているようです。

 これらの楽器は雅楽や田楽、仏教行事等、演奏として使われる場面はすべてばらばらです。宝尽しだからこそ、様々なおめでたい場面等で使用された楽器たちを文様として使用したのではないかと推測しました。
 宝尽しの文様は鍋島焼で好んで用いられた文様です。第一展示室では今回取り上げた作品以外にも色とりどりの宝を文様から見ることができます。みなさんも宝探しをしている気分で作品の文様をじっくり鑑賞してみてください。

(実践女子大学 猪股)



(註)熊谷博人『江戸文様こよみ』2015朝日出版社,p. 22より参照