展覧会概要
青緑色の美しい釉薬で覆われたうつわ「青磁」が完成したのは、後漢時代頃(AD25~220年)の中国においてです。青磁の生産は長い間、中国の独壇場でしたが、10世紀ごろになってその技術が朝鮮半島に伝わり、高麗青磁が誕生し、線刻や象嵌などの装飾を伴うものへと発展していきます。さらに朝鮮時代の15~16世紀頃には粉青沙器と呼ばれる青磁の技術をもとにした白いやきものも作られました。
日本では朝鮮半島からの技術移入を経て、17世紀初頭に国産磁器・伊万里焼の生産が始まります。その中で青磁も作られるようになり、染付を組み合わせた日本独特の新しい装飾の青磁を生み出しました。そして伊万里焼の技法をもとに献上用へと昇華させて作られた鍋島焼において、日本の青磁は美の頂点を極めました。
今展示では伊万里焼・鍋島焼の青磁を中心に、中国・朝鮮半島の青磁も併せて、当館所蔵の青磁の名品を展示いたします。同じ「青磁」でありながらそれぞれの作品で異なる色、そして青磁に映えるそれぞれの装飾にご注目ください。(約80点展示予定)
展覧会ハイライト
■中国の青磁
戸栗美術館の中国青磁の展示は5年ぶりのことです。青磁のはじまり越州(えつしゅう)窯(よう)、宋代青磁のさきがけ・耀州(ようしゅう)窯(よう)、元明時代の青磁の主役・龍(りゅう)泉(せん)窯(よう)の青磁5点を出展予定!
青磁 瓶
龍泉窯 元時代(14世紀) 高27.6㎝
玉壺春(ぎょっこしゅん)と通称する下ぶくれの形の瓶に、緑味を帯びた青磁釉がかかる。貼り付けや彫りなど一切の装飾を排除したところに一種の気品が感じられる。
芸州浅野家旧蔵。
■朝鮮半島の青磁
青磁象嵌 蒲柳水禽文 鉢
高麗時代(1269/1329年)
高8.5㎝ 口径18.5×18.9㎝
内側面には柳や葦、水鳥を、外側面には蓮弁文と菊唐草文を象嵌(ぞうがん)の技法で描いた碗。見込(みこみ)中心に干支銘「己巳」があるが、生産期間が比較的長いため、このタイプの作品が13世紀後半の作と見るか14世紀前半の作と見るか、見解の一致はみていない。
■日本の青磁
◆伊万里
17世紀前半の初期伊万里の時代、伊万里焼生産の中心地・有田(佐賀県)よりもむしろ隣接する波佐見(はさみ)(長崎県)の方が美しい釉調の青磁を生産していました。
波佐見・平戸の製品も含め伊万里青磁の展開をご紹介します。
青磁銹釉 貼付梅花文 盃台
伊万里(波佐見)
江戸時代(17世紀前期) 高6.7㎝ 口径4.9㎝
盃受け部分を竹茎に見立て、脇には竹葉と梅枝を貼り付けた盃台。全体に青磁釉、口縁と竹葉には銹釉を掛け、梅などは白く残している。精緻な細工、青磁釉の発色の良さなどから波佐見 (長崎県)の三股古窯で作られたものと考えられる。
◆鍋島
将軍や幕府高官への献上用として作られた鍋島焼には、青磁釉の良い原料が採集できることから大川内山に窯を築いたという通説があるほど。
青磁染付のデザインセンスや、花瓶や香炉、人形などの立体造形の細工の細かさに目が奪われます。
青磁染付 雪輪文 皿 鍋島
江戸時代(17世紀末-18世紀初) 高5.7㎝ 口径20.2㎝
上品な青磁釉を背景に、鍋島焼ならではの構成力に富んだ配置で雪輪文様を浮かび上がらせている。染付の輪郭線と青磁釉が穏やかに溶け合い、染付のぼかしが画面を引き締める効果をあげている。裏文様は三方に花唐草、高台は櫛目文。