例年よりも早く桜が盛りを迎え、春うららかなお出かけ日和が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、戸栗美術館では4月5日(日)より「柿右衛門展—ヨーロッパを魅了した東洋の華—」が開催されます。
今回の展示では、副題にもある通り、ヨーロッパでどのように「柿右衛門」が受け入れられたかということまで視野に入れた企画になっています。
そこで、4月の学芸の小部屋でご紹介するのは、第2展示室に出展されるマイセンの 「色絵 花鳥文 皿」です。
柿右衛門様式の作品は、主に輸出品として作られ、多くがヨーロッパに伝わっています。当時のヨーロッパでは、まだ磁器を作り出すことができず輸入に頼っていたので、中国や日本からもたらされる磁器は「白い金」とたとえられて王侯貴族のあいだでとても珍重されました。やがて、ヨーロッパでも研究が重ねられた末、 18 世紀初頭になってようやくドイツ、フランスで磁器の製造に成功したのでした。そして当然のように、当時人気を博していた柿右衛門のデザインは、ヨーロッパ製の磁器にも採り入れられました。
柿右衛門写しは、ドイツのマイセンをはじめとして、イギリスのチェルシー窯やボウ窯、フランスのシャンティ窯など各地で行われました。その中でも、マイセンでは他の窯に先駆けて質の高い柿右衛門写しを作り、本物の柿右衛門同様に人気を博したことから、各地で作られた“柿右衛門写し”には、実際に日本の有田で作られた柿右衛門のコピーではなく、マイセンで作られた“柿右衛門写し”作品を手本としているものが少なくありません。
その後、柿右衛門写しからはなれて独自のデザインを展開していった後でさえも、マイセンはヨーロッパの他の窯を先導する役割を担い、他の窯はマイセンの写しを行いました。たとえば、ロイヤルコペンハーゲンの定番デザイン、“ブルーフルーテッド”や、ヘレンドの“インドの華”などのオリジナルは実はマイセンなのです。
閑話休題。
今回ご紹介するこの作品も、マイセンによる柿右衛門写し。当館で所蔵している「色絵 花鳥文 輪花皿」ともデザインがよく似ています。しかし、柿右衛門の皿の口径が30センチほどであるのに対し、マイセンの皿は口径が 42 センチもあり、10センチ以上大きく作られています。これはおそらく室内装飾に用いられたためだと考えられます。
このマイセン磁器は、白い素地の質感や文様の構図・配置、口縁に茶色い縁取りを施すなど、ヨーロッパ磁器の中でもとくに質の高い柿右衛門写しを作ったマイセンらしい精巧さを備えています。しかし、上絵顔料の違いからか、実際の柿右衛門様式に見られるような鮮やかで透明感のある上絵付けはなかなか難しかったようで、この作品の上絵は不透明でマットな色合いになっています。小鳥の表現なども、伊万里・柿右衛門様式では愛らしく軽やかな表現であるのに対し、マイセンのはどっしりぼってりとして、飛んでいるのが不思議なくらいです。また、絵付けの筆さばきなどにも違いが見られます。
「柿右衛門展」は伊万里・柿右衛門様式の優品をずらりと展示した名品展ともいえる展示になっています。その中に1点だけ混じったマイセンの柿右衛門写し。じっくりと比較してご覧いただいてはいかがでしょうか。
「柿右衛門展—ヨーロッパを魅了した東洋の華—」は4月5日(日)から6月28日(日)まで。皆様のお越しを職員一同お待ちしております。