寒さも徐々に緩んでまいりました。皆様にはいかがお過ごしでしょうか。
開催中の「町人文化と伊万里焼展—器からみる江戸の食—」は今月28日(日)までです。あるお客様からは「江戸時代にタイムスリップした感じ」というご感想をいただきまして、江戸の雰囲気を少しでも再現できればと思っていた展示担当者としては嬉しい限りです。
さて、今回は「染付 竹雀文 向付」を中心にご紹介いたします。
交差した竹を側面に描き、縁の内側に竹の葉をあしらった輪花形(りんかがた)の向付です。煮物や鱠(なます)などを入れてお膳の向付に出されたりしていたのでしょう。手に取るにもちょうど良い大きさと形です。ちょっと変わった竹文様のうつわだと思って中の料理を食べると、こちらに向かって飛ぶ雀が1羽、底から出てくるのです。竹の枝に雀が留まっている「竹に雀」の図はよくありますが、これは竹藪を覗いたら勢いよく雀が飛び出してきた、という感じです。料理を全部食べないと竹に雀の文様であることが分からない仕掛けで、いかにも江戸らしい洒落が効いています。
薄い染付(薄ダミ)で竹を描いて周囲を濃い藍色の染付で塗りつぶした文様表現は、18世紀末から19世紀に流行した白抜き文様のうつわの仲間といえます。当時、中国から輸入された日常雑器に白抜き文様があったのでその影響を受けたのだといわれていますが、白抜きの伊万里焼製品を見ていると印象の違う2つのタイプに分けられます。ひとつは中国風の草花や人物や動物などを描いたもの、ひとつは上記の竹雀のように大胆で斬新な和風の意匠を描いたものです。前者は従来いわれているように中国のうつわの影響を受けているのかもしれませんが、後者は当時流行していた藍染の影響があるのではないかと思うのです。確証はありませんが、型染めで白抜き文様を表わす藍染の意匠には遊び心に富んだ大胆なものが多く、伊万里焼のうつわの遊び心にも通じますし、そもそも伊万里焼には17世紀半ば頃から染織デザインの影響が見られるのですから、似た色合いを持つ藍染の影響を受けたとしても不思議はありません。
逆に、伊万里焼を見ながらこんな藍染の着物があったらいいのに、と思うことがあるのですが、現代ではこの竹雀文のような思い切った遊びや洒落っ気は染織にも食器にも少ないようですね。
江戸時代の意匠には、伝統的で斬新という相反する性質を併せ持ったものが多いように思います。今展示のポスターに使った「染付 竹虎文 皿」(右写真、19世紀)も古典的な「竹に虎」の図でありながら、こんなデザインは見たことがない、という新しさがあります。工芸に限らず文学や演劇にも古典のパロディが多いのですが、ふざけているようでいて実はしっかりと伝統を踏まえています。江戸文化から感じる豊かさは、創造力の豊かさに加えて、伝統という深みに根ざした安定感、安心感から来るものなのかもしれません。