学芸の小部屋

2011年4月号

「青磁染付の制作方法」

3月11日に発生しました東北地方太平洋沖地震および以降に起こった各地の地震は、広い地域に大きな被害をもたらしました。この地震でお亡くなりになられた方々に対してご冥福をお祈り いたすとともに、被災されました皆様方に心からお見舞いを申し上げます。
戸栗美術館では、幸いご来館中のお客様や作品等に被害はございませんでしたが、節電協力のため当面のあいだ開館時間を短縮し、10:00~16:00(最終入館は15:30まで)としています。

企画展の開催日程等には変更はなく、4月3日(日)からは「青磁の潤い 白磁の輝き」展を開催します。
今展示は、戸栗美術館所蔵の伊万里焼と鍋島焼の中から青磁と白磁をとり上げた展示となっており、第1展示室では伊万里焼と鍋島焼の青磁を、第2展示室では伊万里焼の白磁を、第3展示室では伊万里焼を中心にそのほかの色釉磁を展出します。


「青磁染付 花文 三足鉢」 伊万里
江戸時代(17世紀中期) 口径29.7cm


 今回の展示の注目ポイントの一つは青磁染付です。学芸の小部屋のバックナンバーなどでも何度かご紹介している通り(2005年5月号、2009年7月号など)、青磁染付は、中国や朝鮮半島の陶磁器には祖形を見出せない日本オリジナルの装飾方法です。
しかし一口に青磁染付と言っても、その装飾方法は以下のように大きく3つに分けられます。
①青磁釉と染付を重ねるタイプ
②染付の部分には透明釉を掛け分けるタイプ
③全面に透明釉を施した上に青磁釉を重ね掛けしているタイプ

「青磁染付 花文 三足鉢」では、中央部分は透明釉との掛け分け(②)、それ以外は青磁釉と染付を重ねています(①)。

①の青磁釉と染付を重ねるタイプで問題となってくるのが、どの段階で染付を施すのか、ということです。通常の染付磁器の場合、素焼きをした素地(初期伊万里の場合は素焼きをしないので乾燥させた素地)に呉須を顔料として絵筆で文様を描き、透明釉を掛けて焼成します。しかし、青磁染付の場合、同じ手順で染付を施した後に青磁釉を掛けて焼成したのでは、厚い青磁の釉層に覆われて染付が薄暗く発色したり、見えづらくなってしまいます。
実際に、陶片で青磁染付の断面を見てみると、青磁釉と青磁釉の間に呉須が挟まっているものもあることから、一度釉薬を掛けた後に染付を施し、その上にさらに釉薬を重ね掛けしている、あるいは釉薬を掛けた上から染付を施すと比重の違いにより呉須が沈澱して青磁釉の間におさまるのではないかと言われています。
ただ、この青磁染付の絵付けの方法については、すべての作品において同じ制作方法が採られているわけではなく、文様によって手法が使い分けられていたり、試行錯誤があったものと考えられ、作品の観察からだけではどのように製作されたのか判断が難しいものも少なくありません。
この作品の場合は、中央をマスキングして全面に青磁釉をかけた後、露胎部分(釉薬が掛かっていない部分)と青磁釉の上に呉須で花文を描き、中央に透明釉を筆などで塗って焼成していると考えるのが、製作手順の効率性からも妥当といえるのではないでしょうか。

青磁染付の作品は、透明釉との掛け分けにより、鮮やかな染付の色と、しっとりと潤いを感じる青磁釉の質感が相俟って瀟洒な魅力に満ちていますが、その製作技法については未だ明らかにされていないやきものなのです。


今展示の第1展示室では、青磁染付がどのような手順で作られたのかを考えながら鑑賞してみると、当時の陶工たちの試行錯誤の様子が感じ取れ、また別のやきもの鑑賞の楽しさを味わうことができると思います。
ご来館の際は、交通状況等に十分ご注意の上、お運びください。
職員一同、みなさまのご来館を心よりお待ちしております。
(杉谷)
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