学芸の小部屋

2011年6月号

「型作りの白磁」

 今年はずいぶんと早い梅雨入りとなりました。雨を含んだしっとりとした空気を表すような色合いの伊万里青磁の作品が並ぶ『青磁の潤い 白磁の輝き』展は、今月26日までの開催です。さて、その伊万里青磁の美しい淡青色は、素地の白さがあってこそ。今回はその素地の白をそのまま活かした「白磁」をご紹介いたします。

白磁稜花鉢 伊万里 17世紀後半

 磁器誕生と同時に染付を焼き始めた伊万里では、無地の白磁はメイン製品ではありませんでした。しかし生産数は少なくありません。白磁は絵付けをしないぶん廉価な器、もしくは清らかな白を必要とする儀礼・祭祀の器などの高級品としても需要があったのです。高級品としての白磁は、とくに17世紀後半から見られます。この頃、色絵素地として純白の白磁「濁し手」が完成しましたが、その「白磁」のままで伝わっているものに、薄手で繊細な形をした器が見られます。

 美しい稜花の形は「型打ち」成形で作られています。これは轆轤で丸い皿や鉢を挽いて、土型にかぶせて叩き、形を整える技法です。伊万里では大変ポピュラーな技法で、今回展示でも紹介していますが、江戸後期の「有田職人尽くし図」の大皿にもその様子が見て取れます。いわゆる典型的な柿右衛門様式の皿や鉢は、ほとんど全てこの型打ち技法で形が整えられていて、これ以降の高級染付食器も輪花や変形のなます鉢、向付は、ほとんどこの技が使われています。これはまさに質の良いものを作るための型作りです。型というと量産品、という意識は、おもに明治時代以降の石膏型に鋳込むタイプの型作りからきているのではないでしょうか。なお、型打ちでは土型に彫り込んだ文様が素地に陽刻となって現れる装飾を併用することが多いのですが、中にはこの写真の鉢のようにシンプルに、この上に色絵を施せばそのままヨーロッパ輸出用、といえるような作品もあります。

  ただし、焼き締めた土型は頑丈なもので、繰り返し長年の使用に耐えるため、17世紀後半に作られた型が後々まで使用された可能性もあり、同じ形をしていても同じ制作年代とは限らない、というのが、染付などの判断基準に頼れない白磁の難しいところです。

 白磁において、型のほかに文様を表す方法としては直接ヘラや釘のような細い道具で彫りを入れる場合がありますが、珍しいものでは以前(2009年8月号)にご紹介した白泥による型紙刷りがあります。今回の展示にはこれらさまざまな技法で装飾された白磁作品が並んでいますので、見比べていただき、それぞれの味わいの違いを楽しんでいただければと存じます。

 

(森)
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