学芸の小部屋

2012年11月号

「白の使い方」

左:「色絵 瓜文 皿」 伊万里(古九谷様式) 江戸時代(17世紀中期) 高9.6cm 口径44.5cm
右:「色絵 牡丹雪輪文 皿」 伊万里(古九谷様式) 江戸時代(17世紀中期) 高7.6㎝ 口径33.7㎝

日ごとに寒気が加わる時節となりました、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

「古九谷名品展—躍動する色絵磁器—」では、古九谷様式の伊万里焼を中心に展示しております。今回は出展作品の中から、「色絵 瓜文 皿」と「色絵 牡丹雪輪文 皿」の2点をご紹介いたします。

これらは古九谷様式の中でも、緑や黄、青などの濃厚な上絵具で余白を残さずに全面を塗り詰めた「青手」と呼ばれるタイプで、背景には空間を埋め尽くすように細かな地文様がびっしりと描き込まれています。白地を背景に絵画的な文様を描いた作品に比べて、色彩に主眼を置いた躍動感のあるダイナミックなデザインが多いのが特徴です。

青手の典型作である「色絵 瓜文 皿」では、瓜と蔓を青、葉を緑、背景を黄とし、余白を一切見せずに全面を濃厚な上絵具で塗り詰めています。裏面も地の白を残すことなく、高台内まで黄彩がたっぷりと施されています。このように大きく瓜文を配した図柄は同時代の小袖文様とも共通していることから、やきものだけでなく、工芸や染織など広い分野にわたって、当時大胆で斬新なデザインが流行していたことがわかります。

一方で「色絵 牡丹雪輪文 皿」では、牡丹の花や葉はそれぞれ青・黄・紫の異なる上絵具で塗り分けており、鍔縁(つばぶち)と見込の雪輪文は白色で表されています。裏面には青海波文を描いた上に黄彩を施しています。ただし、裏面全体を塗りつめている「色絵 瓜文 皿」とは異なり、高台内は白磁とし、中心の福字銘の上には緑彩を施しています。
雪輪の白は、その部分のみ上絵具を塗らないことで素地の白を見せる白抜きによるものです。白抜き文様の周囲を注意深く観察してみると、輪郭線から絵具がはみ出している部分があることから、筆を使って白の部分だけを塗り残したと考えられます。
本作では、全体の配色のバランスに工夫が見られ、白抜きの雪輪文様が一際目を引きます。そして、それらは見込の中でふわふわと舞うように配されたり、鍔縁に7という奇数個で配されていることで、観る者にどこかアンバランスな印象を与え、それにより作品から躍動感を感じとることができます。
 
地の白を余白として残さないのが特徴の青手は、質の悪い濁った素地を隠すために濃厚な色絵具で全面を埋め尽したとも言われています。そうして作られた「色絵 瓜文 皿」は重厚感のある雰囲気を醸しています。しかし中には「色絵 牡丹雪輪文 皿」のように、濃厚な上絵の色彩と白との対比がくっきりとした画面を作り上げ、素地の色を生かした白抜き文様が魅力のひとつとなっている作品もあります。

本展示では、古九谷様式・青手の作品の中に見られる白の表現にも注目してご覧いただければと思います。

(金子)

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