染付 蛸唐草文手焙
伊万里
江戸時代(18世紀前半)
高20.8㎝
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
当館では2015年1月6日(火)より「江戸の暮らしと伊万里焼展」が開幕致します(3月22日(日)まで)。元禄年間(1688-1704)に花開いた古伊万里金襴手様式の型物をはじめとする絢爛豪華なうつわや、江戸後期に庶民の間に普及した染付のうつわなど、人々の暮らしを彩った様々な伊万里焼をご紹介します。
さて、今回の学芸の小部屋では、江戸時代に用いられた暮らしの道具として「染付 蛸唐草文 手焙」(第2展示室出展)を取り上げます。「手焙(てあぶり)」とは、中に炭を入れる小型の火鉢で暖房具として用いられたもの。陶磁器以外に金属や木で作られたものもあり、その形は様々。本作は、丸い胴部に持ち運びしやすいよう把手がつけられ、炭を出し入れするため開けられた木瓜形の窓が愛らしい印象の作品。形の面白さや装飾性を狙いつつ、実用性が考えられた品であることがうかがえます。 手焙は、来客用に用意される火鉢の一種で、江戸時代には趣向を凝らした優品が多く作られました。現代でも茶席において待合などで用いられます。待合とは、茶席に招かれた際に客がそろうまで待ち合わせる場。座布団や行燈、煙草盆に加え、冬季には手焙が用意されます。この場合、炭を入れた状態で運ぶため、把手がついたものが重宝されたことでしょう。さながら、持ち運びの出来る小型のヒーターといったところ。また、江戸時代の出版物などでよく見られる長火鉢(右上図※)には、引出しがついていたり、銅製で酒の燗ができる銅壷をつけたものなどがありました。
その他に、家庭用として用いた暖房具の代表として炉や囲炉裏があげられます。室町時代には既に存在しており、江戸時代・元禄年間にはその上にやぐらをのせ、布団をかぶせたこたつが一般に普及していました。
今展出展品の中に、煙草盆があります(階段ケース出展:右中図)。煙草盆は多くの場合、陶磁器製の小形の火鉢が火入れとして中に組み入れられます。火入れ、灰吹、煙管、煙草入れの揃った煙草盆は、文化・文政年間(1804-1818)の頃に一般に普及したと言われ、上流階級の人々が使った螺鈿細工のものから、長屋の町人が使った木の箱に火入れを組み入れたものまで様々でした(右下図※)。今展出展品の煙草盆は磁器製の箱型で、上部と側面四方に窓が開けられています。上部の窓から火入れや灰吹きを組み入れて用いたのでしょう。古伊万里金襴手様式の作風から、限られた人しか持つ事の出来なかった高級品と考えられます。
伊万里焼は食器類が大半を占めていますが、今展では暮らしの道具、装いの道具、娯楽のための道具などもあわせてご紹介致します。江戸時代、これらの道具類を人々が暮らしの中でどのように取り入れていたのか思いを馳せてみてはいかがでしょうか。「江戸の暮らしと伊万里焼展」は1月6日から3月22日まで開催。皆様のお越しを心よりお待ちしております。
※為永春水著「春色辰巳園:梅暦余興」明治16年 国立国会図書館蔵
(竹田)