明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
戸栗美術館では、1月7日より『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅡ』(~3月22日)を開催いたします。昨年に開催した『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅠ』の続編となる今回の展覧会では、「うつくしい」かたちの古伊万里を中心に展示。時代の流行や需要が託された造形美をお楽しみください。
様々なかたちを作るのに重要なのが成形技法です。本展でも随所で成形技法の解説をしておりますが、今回の小部屋では、「染付 花唐草文 瓢形水注」を取り上げて、どのような技法で作られているのかを、①見る、②触る、③のぞく、の3つの学芸的な観点から考察していきます。
①見る
まずは作品を観察します。本作は瓢箪を寝かせたかたちの水注。紐文様の把手や、胴部の結び目の凹凸表現、その付け根に貼り付けられた葉などからは、巧みな造形を感じます。複雑なかたちをしていますが、高台がしっかりと作られているためか、安定感のある佇まいです。
このような、視覚のみから得られる情報からも成形技法を推察することができます。本作は見るからに複雑な器形であり轆轤(ろくろ)で作るのは難しく、型押し成形(註1)でいくつかのパーツを組み合わせて作ったものでしょう。さらに、本作に限って言えば、同形の色絵の類品が複数確認されており(註2)、それらの胴部にも本作と同じように陽刻で紐のラインが入っていることを鑑みても、型の使用が濃厚です。また、貼り付けられた葉や紐の結び目などは同じかたちのものが対で貼り付けられていること、類品にも同じパーツが貼り付けられていることから、胴部とは別の型の使用が想像されます。さらに、把手の付け根に接合痕があるため(①)、胴部と把手は別のパーツと見てよいでしょう。
見ることのみで得られる情報から、型押し成形であることが推察できましたが、
ここで新たな疑問が芽生えます。それは、本作は一体何パーツから構築されているのかということ。
②触る
いくつのパーツを合わせて作っているのかを確かめるためには、パーツ同士の繋ぎ目を探すのが近道。型押し成形は凹型に粘土を押し当て、そのパーツ同士を付けてかたちを作る技法であるため、接合部分が見つかることがあるのです。しかし、本作については、見ただけでは目立った接合痕は確認できませんでした。そこで、今度は手にとり触覚も駆使して調べていきます。
満遍なく作品を触っていくと、胴上下部分の境目に粘土をならしたような僅かな凹凸を感じ取りました。そこを重点的に確認していくと、繋ぎ目とおぼしき皺を発見(②)。おそらく、胴部は上下別々に作り、接合しているのでしょう。
さらに、注ぎ口付近の紐の陽刻がへこんでおり、その部分にそって粘土をならしたような痕も見られました(③)。加えて下部にもうっすらと縦に皺を発見したため(④)、胴部は上部と下部それぞれパーツを接合して作ったものと推察します。ちなみに高台部分は緩やかな楕円形であり、また、高台際の様子から轆轤を使った様子はなく、板状の粘土を別途貼り付けたものでしょう(⑤)。
ここまでの調査によって、本作は型押し成形で作られていることが濃厚となりました。パーツは胴上下部がそれぞれ2分割で構成され、把手、底、葉2枚、結び目4つを接合しているようです。この推論をより確実なものにするために、今回は内部の確認も行いました。
③のぞく
内視鏡カメラなどの小型カメラを駆使して内部を調査していきます。すると、先程触って確認した胴上部と胴下部の繋ぎ目の裏側には、接合痕が確認できました(⑥)。
また、注ぎ口付近の粘土をならした部分の裏面には、それに沿うように成形痕が見つかりました。その他にも、底面は接合痕から予想どおり別付けであること、随所に成形痕と見られる粘土のヨレなどが確認できました。
ちなみに、内部は型に粘土を押し込んだ際の凸凹状の指痕や、接合痕が見えることが多いのですが、
本作はヘラなどの道具で丁寧にならされており、ほとんど確認できませんでした(⑦)。そのためか、胴下部の接合痕とおぼしき皺の裏面には目立った接合痕は見当たらず、中をのぞいても、全てが分かるというわけではないということを痛感しました。また、胴内部に比べて底面の接合部分のならしが不十分であることから(⑧)、胴下部と胴上部をそれぞれ作って接合したのち、内面の接合痕などを整えてから、底を付けたと考えることができそうです。
以上から、本作は型押し成形で作られた水注と判断しました。さらに、別に作った底と把手、胴部とは別の型で作った葉や結び目などの装飾を貼り付けた、複数の型と粘土のパーツを繋ぎ合わせた作品とも言えます。また、外面はほとんど成形痕が見あたらず、内面の処理にも気を遣った大変丁寧な作品であることがわかりました。
私達学芸員の大事な仕事のひとつに作品の魅力をお伝えしていくという役目があります。そのためには、作品をよく観察することが不可欠となり、作り方一つとっても沢山の考察を経て作品解説にやっとたどり着くことができるのです。今展は「かたち」の展覧会。造形の美しさや面白さに加えて、成形技法についてもご想像いただきながらご鑑賞いただければと思います。
(小西)
註1
註2:佐賀県立九州陶磁文化館、ドイツ・ダーレム東アジア美術博物館など
【参考文献】
『角川 日本陶磁大辞典』角川書店2002
『古伊万里の見方2 成形』佐賀県立九州陶磁文化館・編集出版2005
大橋康二・鈴田由紀夫・古橋千明『柿右衛門様式磁器調査報告書-欧州篇-』柿右衛門様式磁器調査委員会2009
『型が生み出す、やきものの美-柿右衛門・三田-』兵庫陶芸美術館・編集出版2010