春一番が吹き、寒さもようやく和らいできました。皆様お変わりございませんでしょうか。現在開催中の『たのしうつくし 古伊万里のかたちⅡ』では、「うつくしい」かたちの古伊万里を取り上げて展示しています(3月22日(日)まで)。
さて、今月の学芸の小部屋でも、かたちに特徴のある作品を2点取り上げます。ともに17世紀中期の作で、染付と縁銹の施された八角形の猪口です。似通った雰囲気の2点ですが、それぞれ型打ち成形、糸切り成形と異なる技法で成形されています。
型打ち成形とは、轆轤(ろくろ)で挽いた素地を型に被せて叩き、型のかたちや型に彫られた文様を写し取る成形方法です。轆轤による正円を基礎としながら花形や多角形の複雑な形をあらわすことが出来ます。
一方、糸切り成形は、糸で適当な厚さの粘土板を切り出し、型に当てて叩きしめる成形方法です。型打ち成形では作りにくい変形の小皿や、長皿などの成形に用いられます。
ともに17世紀中期の技術革新期以降に使用される技法で、轆轤のみでは成形できない多様で装飾的な造形や、組食器製作に有効な技術として普及し、現代まで伝えられてきました。しかし、今回ご紹介する2点のように似通った作風に仕上がり、作品を一見しただけでは技法の見分けが困難なものもあります。今回は技法の見分けのために注目すべきポイントをいくつかご紹介します。
一つ目のポイントは高台です。型打ち成形の高台は、轆轤を使用して削り出すため円形に仕上がります。一方、糸切り成形の高台は、高台用の型に沿って帯状の粘土を張り付ける“付け高台”であり、四角形や多角形など自由に成形されます。そのため、成形に型を用いたうつわのうち、高台が円形であれば型打ち成形、それ以外であれば糸切り成形と、おおまかに技法を推測できます。この特徴は本二作品にも観察できます(図1)。
ちなみに、円形高台を持つうつわの中には、糸切り成形後に円形の高台を貼り付けたものがまれに存在します。こうした作例を見分けるためには、高台の内側に注目します。付け高台をする場合、高台外側には付け土を盛って丁寧に修正するものの、内側の付け根には何もせず、接合部の隙間には釉薬が入り込んだ状態となります(図2)。そのため、型打ち成形の削り出し高台と糸切り成形の付け高台を比較すると、後者の方が高台内の付け根に釉が厚く掛かり青みがかって見えるという違いがあらわれ、両者を見分けることができます。
さて、もう一つのポイントはうつわの厚みです。型打ち成形のうつわは最初に轆轤である程度成形をするため、うつわの底から口縁にかけて素地が少し薄くなります。一方で糸切り成形は一定の厚さに切り出した粘土板を成形するため、完成したうつわの厚みは一定です(図3)。
本二作品を手に取ってみると、「染付 花鳥文 八角猪口(右)」に底部から口縁までの厚みは均一です。一方、「染付 竹文 八角猪口(左)」には、底部から口縁までの厚みの変化や、轆轤成形に特徴的な厚みの不均一さなどを確認。こうした一連の観察を経て、冒頭の結論に至ることができました。
このように見ていくと、一見似通った雰囲気を持つ作品同士でも、それぞれ異なった成形技法が使われていることがあります。作品から技法を類推したり、自分であればどう作るかなど、作り手目線に立って思いを巡らせたりすることも、陶磁器鑑賞の楽しみの一つです。今回ご紹介の内容も、ご鑑賞の際の注目ポイントの一つとしていただけましたら幸いです。
(上田)
【参考文献】
東京芸術大学美術学部工芸科陶芸講座『新技法シリーズ 陶芸の基本』美術出版社1979年
『古伊万里の見方2 成形』佐賀県立九州陶磁文化館・編集出版2005年
中島 由美『古伊万里 小皿・豆皿・小鉢1000』講談社2002年